欧米ではツアーメンバーのほとんどが、技術面のサポートを受けるためコーチとの契約を結んでいる。なかには同時に複数人のコーチに師事する選手もいるほどだ。そしてコーチたちの中には、100ヤード以内の距離のみを専門にチェックする“アプローチ&パッティング専門のコーチ"が存在する。


●トッププロほどチームを作る


国内ツアーは今、オフシーズンだが、PGAツアーに出場する選手はほぼ休みなく1年間、転戦し続ける。PGAや欧州ツアーの試合がなくても、例えば日本やアジアンツアーといった、普段は出場できないツアーにスポット参戦をしたり、スポンサーのイベントに出たりもする。その中で新しいクラブやスイングを試すのだから、その多忙さは尋常ではない。

コンディション維持だけでもかなり難易度が高いが、そのピークをメジャーに持っていく調整も行わなくてはならない。日々変化するフィジカル、メンタルそしてスイングのチェックをすべて選手自ら行うのは至難の業だ。だからチェックをコーチという外部の目にゆだね、選手はそれを修正することにエネルギーを注いだほうが効率的なのである。


●100ヤード以内のコーチは、より“アカデミック”


スイングの技術的な部分を指摘するコーチ、メンタルを整えるコーチ、パフォーマンスを最大限に引き出すコーチなど、役割は細分化されてきている。そのため1度に複数のコーチと契約をする選手も多い。そんな選手たちの中で増えてきているのが、ショートゲームやパッティング専門のコーチと契約するケースだ。

彼らはアプローチとパッティングに特化して、アドバイスや指導を行う。なかでももっとも多くのトップ選手と契約をしているのが、パッティング専門コーチのフィル・ケニオンだ。

ケニオンはジャスティン・ローズやヘンリク・ステンソンなどのパッティングコーチを務めている。元祖パッティング専門コーチとしてヨーロッパで活躍したハロルド・スウォッシュと幼少期から親交があったという事もあり、スウォッシュに学んだ知識と独自の実験と検証によって得たデータを用いてプロを指導している。

マット・クーチャーを指導するパッティング専門コーチ、マイク・シャノンはアドレスでのスタンスやクラブの向きのデータを取得し、数値化してアドレスの再現性が高くするような指導を行っている。セットアップに関してミリ単位で細かく測定して再現性を追求するシャノンの指導方法はスポーツの指導というよりも物理の授業のようだった。


●アマチュアこそ感覚より理屈が重要


彼らに共通するのは、ショートゲームやパッティングを“体の動き"ではなく、“物理現象"という視点でとらえているということだ。特にフルスイングをしないパッティングにはパワーはいらない。だから体の動かし方からではなく、もっともカップに近づく確率が高いクラブの動きやボールの転がりから体の動かし方を決めていく。

ショートゲームやパッティングは一見タッチなどの感性が重要に思える。しかし身体能力に左右されにくい距離だからこそ、論理的に科学的に分析と対策をしていく必要があるのだ。

2018年のPGAティーチャー・オブ・ザ・イヤーを受賞したジェームス・シークマン。彼もショートゲーム・パッティング専門のコーチだ。多くのPGAツアープレーヤーを教える一方で、コーチやアマチュア向けに講演や書籍などで、わかりやすくショートゲームの技術を解説したことが評価された。

もっとも確率の高い方法をシンプルな動きで実現する。ショートゲーム・パッティングで求められるものはプロでもアマチュアでも同じだ。今回、そんな合理的な欧米のショートゲームとパッティングについてまとめた本を上梓した。

『欧米流アプローチ&パットで90切り』学研 著・吉田洋一郎(http://hiroichiro.com/立ち読み付き%ef%bc%81欧米流アプローチパットで90切り/)

スコアが伸び悩む、平均スコア100前後の人に向けた内容になっている。アプローチとパッティングの成功率を上げるためのシンプルな方法が書かれているので、ぜひ手に取ってみてほしい。

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。欧米のゴルフ先進国にて米PGAツアー選手を指導する80人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を直接学び研究活動を行っている。書籍「ロジカル・パッティング」(実業之日本社)では欧米パッティングコーチの最新メソッドを紹介している。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

フィル・ケニオン氏が指導するスタジオ
フィル・ケニオン氏が指導するスタジオ