ツアー競技に出ているプロゴルファーの多くは10歳になる前からクラブを握り、子供の頃から1日何百というボールを打っている。いわばゴルフのエリート教育を受けてきた人ばかりだ。


■エリートゴルファーの壁


こうしたエリートゴルファーたちは、ボールを打つ運動回路が自然に身についている。大人になってからゴルフを始めるアマチュアのように、体重移動の方法やトップの作り方、切り返しのタイミングなどをいちいち考えなくても、本能的に体が動いてくれる。幼いころからゴルフに親しんでいるので、何も考えなくても当たり前のようにボールが打てるのだ。

ジュニア時代からゴルフをしているエリートたちは、そのまま練習を続けていれば、一定のレベルまでは強くなる。それが県代表レベルなのか、全国レベルなのか、世界レベルなのかは本人の才能や努力、環境しだいだが、若くしてプロで活躍する選手というのはこうしたエリートの中から生まれることが多い。

ただし、こうしたエリートもどこかで必ず壁にぶつかることになる。体で覚えた技術が通用しないレベルまで到達すると、そこからは自分の頭で考えてゴルフに取り組まなければならなくなる。

この壁が多くの選手にとって試練の場となる。なぜなら、今まで体でスイングを覚えてきた過程と、頭で考えながらスイング構築する過程は全く違うからだ。頭で考えながらスイング構築をするためには、スイングの知識も必要になるし、スイングを組み立てるプロセスを知る必要もある。そのため、スイング理論を学んだり、コーチなどの専門家に指導を受ける必要がある。


アリヤ・ジュタヌガンなどの一流選手の指導経験を持つ、アンドリュー・パーク
アリヤ・ジュタヌガンなどの一流選手の指導経験を持つ、アンドリュー・パーク

技術を再構築する過程で、体で覚えた感覚が狂い、スランプに陥ってしまう選手も多い。スペインの砂浜で3番アイアン1本で技を磨いたセベ・バレステロスは、自らの研ぎ澄まされた感性を武器に若くして成功したが、30歳以降に取り組んだスイング改造によって輝きを失った。

その他にもスイング改善が上手くいかず、表舞台から消えた選手は多い。ツアー選手のスイングは繊細だ。長年体に染み込ませた技術は、些細な変化で簡単に崩れる。今までの感覚を失うと簡単には元に戻ることができず、進むことも退くこともできない迷宮に迷い込む可能性がある。


レッドベターアカデミーのヘッドコーチを務め、一流選手やジュニア選手の指導経験が豊富なアンドリュー・パークは、エリートゴルファーの指導に関してこのように語っている。

「良いプレーヤーには既に持っている資質を活かして、動作をより安定的で一貫性のあるものにするために修正を加えることが大切だと考える。弱みを改善することは大切だが、強みを発展させていくことも必要である」

ツアープロレベルでは、スイングを変えることは薬にも毒にもなる。強みと弱みを把握し、何を変えるのかを適切に判断することは、スイング構築において非常に重要なことだ。

タイガー・ウッズやフィル・ミケルソンのようにスイングの再構築に成功することができれば、壁を乗り越え今まで以上の飛躍が可能となる。


■非エリートは知識から学ぶ


大人になってからゴルフを始めた、いわば非エリートは頭で動きを覚えることが多い。ゴルフスイングというのは、日常ではほとんどしない動きの組み合わせなので、多くの人はクラブを握るグリップから覚えなくてはならないし、スイングについて説明を受けなければどのように振っていいものか不安になる。遊びの延長でスイングを覚えてしまう子供とは違うのだ。

前出のパークは非エリートゴルファーについて、このように語っている。

「初心者や大人になってからゴルフを始めた人はたくさんの改善が必要だ。そのようなゴルファーには私も初心に戻り、最も基本的なスイング技術から教えるようにしている」

私も18歳でゴルフを覚えた非エリートゴルファーだ。サッカーに打ち込んでいたこともあり、スポーツには自信があったが、ゴルフだけはいくら練習しても上達しなかった。

最初の1年くらいは、「ダンプ1杯分のボールを打て」と言われていたこともあり、とにかく自己流でボールを打った。時には1日1000球近くのボールを打ったが、1年たってもスイングはひどいオーバースイングのままだったし、100を切ることもできなかった。センスがなかったこともあるが、ゴルフをはじめたのが18歳ということもあるだろう。それくらいの年齢からゴルフを始めると、スイング動作を体で覚えることができず、頭で考えながらボールを打ってしまう。無心になって振るということが不安で、チェックポイントをいくつも考えながらボールを打っていた。しかし、的外れな自己流だったのでだいぶ遠回りをしてしまった。


アンドリュー・パーク(右)に指導を受ける筆者
アンドリュー・パーク(右)に指導を受ける筆者

非エリートである多くのアマチュアは、私と同じような経験をしているのではないだろうか。大人は子供が持っているような吸収力や感性は失っているが、物事の理解力や計画性は発達しているはずだ。体で本能的にゴルフを覚えることのできない大人は、頭でゴルフスイングの基礎や仕組みを理解し、それを体に覚え込ませて上達する方法が一番効率が良い。そして、多くのアマチュアは時間もお金も有限であり、プロのように豊富な練習量をこなすことはできない。短い練習時間で、いかに練習の質を高めるかが重要になる。

アマチュアはエリートである第一線のプロと境遇も環境も全く違う。当然、センスも才能も違うので、同じように考え、同じことをしても上達はできない。正しい情報や知識を集め、筋道を立てて考えることで腕を磨いてほしい。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)

◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/