平成のプロゴルフ界では“男女逆転”が起きた。バブル崩壊後、男子ツアーはスポンサーの撤退が続き、試合数は下降線をたどった。90年(平2)に44試合あったツアー競技が今季は25試合。一方、女子ツアーは99年は31試合だったが、今季は39試合。賞金総額は昨季男子が約34億円に対し、女子は37億円超、今季は20年前の2倍以上の39億4500万円に膨らんだ。

女子ツアーの隆盛。04年に宮里藍のプロデビューという起爆剤はあったが、それだけで「失われた20年」を乗り越えたわけではない。成功の鍵は日本女子プロゴルフ協会(LPGA)による選手への徹底した教育にある。スポンサーやファンあってのツアーであることをたたき込んでいる。前会長の樋口久子の時代から続く地道な努力の成果だ。

例えば96年から始まったルーキーキャンプ。プロテストに合格したばかりの新人に試合の裏方作業をさせて、スタッフやボランティアの苦労を体験させ、トーナメントの成り立ちを理解させる。12月には3泊4日の新人研修。マナー講師による「魅力的なプロゴルファーになるための演出術」として、自己紹介の仕方からイスの座り方、パーティーマナーなどを学ぶ。化粧品会社によるメークレッスンもあれば、10年からはアンチドーピング、13年からはSNSについての講義も盛り込まれた。

中には高校を卒業したての新人もいる。すぐに身につかない者もいる。ツアーの現場では協会幹部らが目を配り、根気よくすり込んでいく。新人研修は復習の意味も込めて、2年目にも再び受講させる。

スポンサーとファンの満足度を上げる「おもてなしの精神」を根付かせた。その力が顕著に出るのがプロアマ戦だ。試合とは違い、主役はゲスト。女子プロは「お客さまに楽しんでいただく」に徹する。男子プロの豪快なドライバーショットを体感するのもいいが、飛距離の近い女子プロと和気あいあい、レッスンを受けながらのラウンドが好まれる傾向が強まった。

プロアマ戦後に女子プロが同組のゲスト宛てに、自筆でメッセージを書く「サンクス・レター」という心憎い演出も好評だ。

主催者(スポンサー)を束ねる日本ゴルフトーナメント振興協会関係者は、企業にとってプロアマ戦が接待目的のビジネスツールになったと強調。それが女子ツアーのスポンサー増に結びついた。一般的に女子ツアー1試合にかかる経費は男子ツアーの約3分の2といわれ、コストパフォーマンスも上回る。

LPGA会長の小林浩美は「常識、良識は教え込むが、その後は各自の個性。人間力の問題」と話す。宮里に続いて横峯さくら、上田桃子ら個性的なタレントが登場して相乗効果が生まれ「多様性の時代とマッチした」(小林)。一極集中の人気にならず、男性ギャラリーはお気に入りの女子プロの画像を待ち受け画面にしたり、応援うちわを持って“推しメン”ならぬ“推しプロ”について回る。「AKB現象」とも似ている。だからこそ、宮里の米ツアー進出後も「抜け殻」にならなかった。

イ・ボミ(韓国)がアイドル級の人気になったり、海外出身選手に日本企業のスポンサーがつくのも「日本語を勉強するなど、本人努力によるもの」と、小林は自覚の高さを喜ぶ。 同時に下部ツアーも今季20試合と充実、レギュラーツアー昇格待ちのスポンサーも多い。経費はレギュラーほどかからず、スポンサーには「お買い得感」が魅力だ。また、CS放送で全選手のティーショットを映すため、ファンにとっては次世代タレント発掘の場になり、選手にとってはいい緊張感につながる。

既に飽和状態ともみられる女子ツアーだが、小林は「まだまだ増やせる」とし、アジア市場への拡大も視野に入れる。プロスポーツ・ビジネスとしての目標は米男子ツアーだと、令和に向けて意気軒高だ。(敬称略)

【岡田美奈】(おわり)