石川遼(27=CASIO)が、涙の国内メジャー初制覇を飾った。九州南部で続いた大雨の影響で決勝の2ラウンド(R)分となる1日36ホールに臨み、一時は首位と7打差まで後退。それでも奇跡の追い上げで、35ホール目で首位黄重坤(ハン・ジュンゴン、27=韓国)を捉え、通算13アンダーの269で並んだプレーオフ(PO)1ホール目に4メートルのイーグルパットを沈めて劇的勝利。5年のシード権を獲得し、20年東京オリンピック(五輪)出場と米ツアー再挑戦を目標に掲げた。ツアー優勝は3年ぶり通算15勝目。

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これは夢か、現実か。奇跡のドラマが完結した瞬間、石川は絶叫し涙をにじませた。この日、37ホール目となったPO。9時間11分の死闘に決着をつけたのは、18番パー5での4メートルのイーグルパットだった。第1打は右のカート道に当たり、あわやOBだったが、フェアウエー中央に跳ね返ってきた。1度は優勝が絶望的になりながら、最後の最後まで、運は石川に味方をした。

「信じられません。今までの優勝で一番興奮した。落ちるところまで落ちて、優勝は不可能だと思っていた。あんなにひどい内容でもあと20ホール以上、回らないといけなかった。こんなはずはないと思う自分と闘っていた。これは夢なのか、どこか、遠くにいる感じがします」

何度も諦めた。午前の第3R。一時は単独首位に立ちながら4番でボギー、5番から2連続ダブルボギー。3ホールで5つスコアを落とした。さらに後半の12番で2連続ボギーを打った時点で通算5アンダーまで後退。首位と7打差。どん底に落ちたその時、リーダーボードが視界に入った。

「見たくなかったけど見えてしまった。トップが12アンダー。(石川より1つ上の)6アンダーが二十何位かだった。苦痛でした」

そこから奇跡が起きた。乱れたアイアンを立て直し、終盤の3連続バーディーで首位と4打差6位で第3Rを終了。午後の第4Rへとつなげた。

夕暮れの残り3ホールで、首位黄とは3打差あった。16番をバーディーで2打差。続く17番パー3で、黄が放ったティーショットはグリーンに乗りながら傾斜で池に落球。相手がダボとし、ついに7打差から追いつきPOまでもつれた。

17年に米ツアー出場権を失い、昨年はドライバーのイップス、今年は腰にヘルニアの症状が出て、5月の中日クラウンズで初めて棄権。試合から遠ざかった。

「自信をつけるのは簡単ではないが、自信を失うのはあっという間。だから練習をするしかなかった。今年までしかシード権がなくて、生涯獲得賞金の出場資格まで考えた自分がいた」

15歳だった07年マンシングウェアKSB杯で、1日36ホールを戦い最年少優勝を飾った。12年が過ぎ、過酷な1日37ホールの末に悲願の国内メジャー初制覇を達成。27歳になった今でも、枯れない夢がある。

「富士山より高い山に登りたい。エベレストに登ってやると思うことが大事。これから、8000メートル以上を登らないといけない。日本代表もつかみにいく」

東京五輪出場と米ツアー再挑戦へ。眼前に広がる開聞岳に沈む夕日が、スポットライトのように、石川を照らした。【益子浩一】

◆日本プロ選手権 日本最古の歴史を誇る国内3大大会の1つで、大正、昭和、平成を経て、今回の石川が令和最初の大会王者になった。第1回大会は大正最後の年となる1926年7月に大阪・茨木カンツリー倶楽部で開催。優勝は宮本留吉。戦争のため途中で休止の年があったが、今年で第87回を迎えていた。

◆石川遼の初優勝VTR 東京・杉並学院高1年だった石川は07年5月20日、プロツアー初出場となったマンシングウェアKSBカップ(岡山・東児が丘マリンヒルズGC)で15歳245日というツアー史上最年少優勝を飾った。第1日は最大瞬間風速24・8メートルの強風で中止。翌日の第1ラウンド(R)はパープレーの72で70位、第2Rは69で首位から7打差の23位で予選を突破した。1日36ホール競技となった最終日は、午前6時20分の第1組でスタート。第3Rは69で9位に急浮上すると、組替えなしで続けて行われた最終Rもプレーはさえわたった。首位に並んで迎えた17番パー3で、約30ヤードのバンカーショットがカップに吸い込まれるスーパーショット。6アンダーの66をマークし、通算12アンダー276でホールアウトすると、後続の選手は追いつけなかった。

<石川遼の使用クラブ>

▼1W=キャロウェイ エピックフラッシュ・サブゼロ(シャフト=トリプルダイヤ、9・5度、45インチ)▼3W=同 XR-16 スタンダード(13・5度、43インチ)▼2アイアン=同 APEX-PRO(18度)▼3アイアン=同 XフォージドUT(21度)▼アイアン(4~9、PW)=同 APEX-MB▼ウエッジ=同 Xフォージド(50度)、マクダディー2・ツアーグラインド(58度)▼パター=オデッセイ PT09iX▼ボール=キャロウェイ クロムソフトX

◆石川遼(いしかわ・りょう)1991年(平3)9月17日、埼玉・松伏町生まれ。6歳からゴルフを始める。東京・杉並学院高1年時の07年マンシングウェアKSB杯でツアー史上最年少優勝を飾り、翌08年1月にプロ転向。当時ツアー外だった同年8月の関西オープンでプロ初優勝、10月マイナビABCチャンピオンシップでプロとしてツアー初優勝。趣味は音楽鑑賞。16年3月に結婚。175センチ、68キロ。