全英女子オープンの優勝から周囲の重圧を背負い続けてきた渋野日向子(21)ですが、9月に奇跡的な大逆転で凱旋(がいせん)Vを飾りました。日刊スポーツでは「しぶこの足跡」と題し、31日大みそかまでの7回、WEB連載で今季の戦いを再掲載します(毎日正午掲載予定)。第5回は最終日に8打差をひっくり返した戦いを振り返ります。この大会で史上2番目の速さで国内獲得賞金1億円に到達したのです。

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全英制覇から約1カ月半-。再び、あの「シンデレラスマイル」が輝いた。

首位と8打差20位から出た最終日。1打差で追うテレサ・ルーが最終18番にきた時、既に64(8バーディー、ボギーなし)でホールアウトしていた渋野はパットの練習場にいた。プレーオフに備え、黙々とパターを打ち込む手は震える。気にしないと思っても、テレサの第2打が3メートルにつくと大歓声がいやでも耳に入ってきた。緊張の中、しばらく沈黙が続いた数分後、「外した!」。藤野キャディーが渋野に歩み寄り、優勝を告げた。

「おめでとう」-

取り囲んで見守っていたギャラリーからも拍手がわき起こり、ぺこりと頭を下げた。

ツアー史上2番目の8打差をひっくり返す大逆転劇だった。ルーキーイヤーでは宮里藍以来2人目の1億円到達と新たな勲章が加わった。

「自分でもびっくり。今年は自分でも予想できない結果ばかりです」

全英を含む過去3勝は全て1、2位から最終日をスタート。ひと味違う大逆転劇だった。

猛チャージだ。4番で8メートルのバーディーパットを沈めたのが合図。5、6番も決め3連続バーディーを奪取し、9、10番でもスコアを伸ばした。前半まったく吹かなかった風が、後半から強くなり、上位組が伸びあぐねても、勢いは止まらない。12、15番でバーディーを奪ってついに首位をとらえた。16番パー3の第2打は、グリーン左奥の深いラフから直接カップイン。満面の笑みでガッツポーズをつくり、ミラクルが完結した。「こんなに伸びるとは思わなかった」と振り返った。

葛藤と闘ってきた。全英制覇後、加速度的に変わっていく環境についていけなくなった。自分のゴルフ、そして、笑顔さえも失いかけたが、救ってくれたのは、苦しみを分かち合える黄金世代の仲間だった。第1ラウンドで原英莉花、新垣比菜と回り、純粋に「楽しむ」ことを思い出し、本来の攻めのゴルフも取り戻した。

「勝ってからは自分にプレッシャーをかけていたのかな。この試合からありのままの自分で頑張っていきたいと思った」

新たな目標に「賞金女王」を掲げた。「1試合1試合が大事になってくる」と気を引き締める。この時点でツアーは残り10戦。

全英制覇は偶然ではなかった。それを証明する国内3勝目。

まさにツアー最終戦まで、賞金女王をかけた渋野の戦いは、続くことになる。