息をのむ最終日最終組の優勝争いの緊張感とは、正反対の光景に遭遇した。26日まで行われた、国内女子ツアーのミヤギテレビ杯ダンロップ女子。優勝した西村優菜、2位となった浅井咲希、第2ラウンドから猛追していた原英莉花の3人で回る最終組が、7番パー3に到着した直後だった。草むらから出てきたのはタヌキだった。1匹が姿を見せると、ほどなく続々と現れ、うち4匹がティーイングエリア右の丘で、じゃれ合い始めた。じゃれ合いすぎて、バランスを崩した1匹が、コロコロと丘を転がり落ちてきた。そんなコミカルで癒やされる場面に立ち会い、静まり返るティーショット前に、笑いをこらえるのに必死にさせられた。

ゴルフが他の球技と最も異なるのは、自然を相手に戦っている点といえる。雨風などの天候だけではなく、時には動物や虫にも気を付けなくてはならない。いざショットを打つ瞬間に、突然カラスが「カーッ」と、大声で鳴き始めることは日常茶飯事。ミスショットしてしまったプロは、数え切れないだろう。

それだけではない。7月のニッポンハム・レディースで、スタート時間の早い組で回り始めた森田遥が、バンカーに打ち込むと、大量についていた足跡の溝にはまってしまった。「最初はシカかなと思ったけど(足跡の指が)3本だったのでカラスだなと」。不運から森田は、このホールをボギーとしていた。

今月のゴルフ5レディースでは、現在賞金ランキング1位の稲見萌寧が、虫刺されによる左腕痛で、第1ラウンドの9ホール終了後に棄権した。「痛いというか、6番ホールでブヨかアブか分からないけど、何かに刺されて、めっちゃ血が出て、めっちゃ腫れ始めて、熱も持って重たい感じになった」。稲見はこの大会の前週と翌週に優勝。「たら」「れば」は禁物と言われるが、もしも虫刺されがなかったら…。今季の好調ぶりなら、過去に全美貞と鈴木愛しか達成したことがない、3戦連続優勝を果たしていたかもしれないと、思わずにはいられない。

8月のメジャー、AIG全英女子オープンでは、優勝争いしていたマデレーネ・サグストロム(スウェーデン)が放ったティーショットのボールを、カモメが口にくわえ、グリーンから遠ざかる位置に運んでしまうアクシデントもあった。結局、競技委員を呼び、元の位置に戻してプレーを再開でき、最終的に2位。それでも現在の男女国内ツアーに多い無観客開催で、打球の行方が見えないドッグレッグのホールなどで同じことが起きれば「もっと飛んでいたはずだけど…」と、確固たる証拠もなく、モヤモヤとした気持ちのまま、不運を受け入れざるを得ないことも起きてしまう。

今年の女子ツアーだけでも、鳥や虫などの生物がプレーに影響した例は次々と挙がる。私が取材に行った時だけでも、ウサギやカメ、キツネ、シカなどに出合った。今回のタヌキをはじめ、かわいい動物が多いが、クマやヘビ、イノシシとはち合わせる可能性もあれば、海外ツアーでは池にワニがいる危険なコースもある。選手だけではなく、観戦やプレーを楽しむゴルフファンも「もしも」への備え、心構えがあった方が、よりゴルフに集中できるだろう。一方で、コロコロと丘を転げ落ちる、かわいすぎるタヌキに遭遇できるのも、ゴルフの魅力の1つなのかもしれない。【高田文太】