男子ゴルフの今季メジャー最終戦、全英オープンが14日に開幕する。150回記念大会となる今年は、ゴルフ発祥の地とされるセントアンドルーズのオールドコースで開催される。

俳優中井貴一(60)は04年にテレビの企画で、ゴルフ仲間の佐藤浩市、ヒロミ、木梨憲武と同コースでラウンドした。1人のアマチュアゴルファーの前に立ちはだかった聖地は「まるで人生そのもの」だったという。【聞き手・近藤由美子】

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セントアンドルーズのことは、日刊スポーツで記者としてゴルフ取材もしていた叔父から聞いたことがありましたが、実際に行ってみて驚いたのは、街の人たちが普通に散歩している場所だったということでした。コースすぐ横の側道を歩いていて、コースの隣はごく普通の街。聖地と言われるだけに、立ち入ることさえ許されない雰囲気がある場所で、到底コースを回れるものではないとずっと思っていましたから、本当に意外でした。

当時、日本では80台前半くらいで回っていましたが、それが何の意味もなさないコースでした。その日は年に1回あるかないかのいい天気。スムーズにプレーはできましたが、スコアはグダグダでした(笑い)。

スタート1番ホールこそ風がなければバーディーかパーが取れる。「意外と楽だな」とみんな思うんです。ところが2、3、4番と進むにつれ、アンジュレーション(=起伏)が強くなり、海際に行くと風が出る。バンカーは深くなる。行けば行くほど体は疲れてくる。せっかくグリーンに乗ったのに、凹凸が激しくて、どこに打ったらいいか分からないこともある。キャディーさんに「ウエッジを」と言うと、「地面が硬くてうまくオンしないから、パターで狙いなさい」とパターを渡される。四苦八苦しながら、18番までたどり着く。すると18番はフェアウエーが平らで、最後はパーかバーディーで優しく上がれるんです。

ラウンドを終えてみて、この18ホールは、まるで人生そのものだと感じました。スタートこそ、まるで生まれたばかりの赤ん坊に対するように「やさしく行ってらっしゃい」とゴルフの神様がほほ笑みますが、その後2番から17番まで、とてつもない試練を味わわせます。時には迷い、絶望し、ポットバンカーに入れたら後ろに打つしかない時もある。それでも、コースを進んでいくしかない。そして迎える最終18番。セントアンドルーズは「よく帰ってきた。頑張ったね。気楽にやりなさい」とやさしく迎えてくれる。

まるで人の一生になぞらえるように、ゴルフのやさしさと厳しさを教えてくれる。これがセントアンドルーズの魅力だと思いました。

一緒に回った仲間は最初、全員緊張していたと思います。「どうするのこれ」「どっち打つのよ」と言い合いながらゴルフをする感じでした。完全に鼻をへし折られるし、とってもいい経験をさせてもらいました。

松山君とは彼がプロになる1年前、同じ組でゴルフをさせていただいたことがあります。当時から、モノが違いました。体の中にゴムが入っているでしょ、というほどバネの強さと柔らかさを感じました。マスターズ優勝は僕の中で特別なことではないです。

全英では、実力と大きな運が必要なのでは。ナイスショットした時に、思う方にボールが転がってってくれるとか、ミスをした時、得意な方にボールが行くとか。運がすべてマッチした時に優勝があるのかな。

今、いろんなことが元気がないですからね。マスターズの時のように、日本に力を与えるためにも優勝してほしいですね。

◆中井貴一(なかい・きいち)1961年(昭36)9月18日、東京都生まれ。81年映画「連合艦隊」でデビュー。映画は「ビルマの竪琴」「四十七人の刺客」「壬生義士伝」「記憶にございません!」など。ドラマは「ふぞろいの林檎たち」「武田信玄」「最後から二番目の恋」など。主演映画「大河への道」が公開中。181センチ。A型。

<セントアンドルーズ・オールドコース>

▼世界最古のコース 1552年に造られたとされる。海に面したリンクスコースで、自然の地形を生かし、人の手を極力加えない“あるがまま”のセッティングが特徴。「神がつくったコース」といわれる。大小100以上のバンカーがある。雨や風といった気まぐれな気候も特徴的。

▼全英オープン開催 7年ぶり30回目。1872年の12回大会までスコットランドのプレストウィックGCで開催され、翌13回大会でセントアンドルーズで初開催。90年以降は基本的に5年ごとに開催してきた。24年には全英女子オープンが開催される予定。

▼一般利用可能 パブリックコースのため、プレーは基本的にはセントアンドルーズ市民を優先。日本からの宿泊パックもある。

▼同コース開催の全英オープン日本人最高位 78年の青木功の7位。

▼トミーズ・バンカー 17番パー4のグリーン左のバンカーは、78年に中嶋常幸が脱出に4打かかったことで知られる。ティーショットは右ドッグレッグで、右側のオールドコース・ホテル越えを狙うことなどから、17番はコース名物の1つとされる。

▼90年以降の優勝者 今大会も出場するタイガー・ウッズが00年と05年に、セントアンドルーズで“コース2連覇”を果たした。90年はニック・ファルド(英国)、95年はジョン・デイリー(米国)、10年はルイ・ウェストヘーゼン(南アフリカ)、前回15年はザック・ジョンソン(米国)。