前回覇者順大まさかの棄権/箱根駅伝
<第84回箱根駅伝>◇2日◇往路◇東京-箱根(5区間108キロ)
山に悪魔がいた。昨年、「山の神」今井正人(現トヨタ自動車九州)の区間新で6年ぶりの総合優勝を果たした順大が、今年は悲劇に泣いた。5区の山登りで小野裕幸(3年)が脱水状態に陥り、往路ゴール500メートル手前で倒れ、そのまま棄権した。箱根駅伝での途中棄権は史上9度目。順大は記録なしの扱いとなり、今日3日の復路はオープン参加に。来年は予選会からの出場となる。前回覇者が予選会からの出場となるのは、96年山梨学院大以来史上2校目だ。
今年は山が地獄に変わった。ゴールまでわずか500メートル。左右に蛇行し続けた小野が、音を立てて路上に崩れ落ちた。前に進もうともがくが、力がまったく入らない。仲村監督に力なく引きずられ、途中棄権を示す無情の赤旗が振られた。「手足が冷たく、少しけいれんしていた。監督不行き届きです」。仲村監督の目に涙が光った。
昨年11月の全日本大学駅伝で、小野は横隔膜を痛めた。食事を減らしたところに、左足アキレスけんの古傷が再発した。練習不足は明らかだったが、それでも決してあきらめなかった。沢木総監督は「呼吸がうまくいかなかったのかもしれない。残念のひと言」と肩を落とした。
小野にとって、雪辱の箱根だった。昨年、故障したエース松岡の代役で2区に抜てきされた。しかし、区間12位に終わり期待を裏切った。「情けなかった。力の半分も出せなかった」。だからこそ、今年は体調不良でも、今井から山登りを受け継いだ。
しかし、気力も体力も限界だった。標高差864メートル。5・5キロから13キロも続く曲がりくねった山登りが体力を奪った。22キロ付近で体がふらつき、給水を受けた。屈伸し、心身ともに奮い立たせたが、最後は立っている力も残っていなかった。
順大は、1区の関戸が最下位の20位と出遅れた。4区を終わってもトップに6分36秒遅れの18位と低迷した。小野は、前回王者のプライドをかけ、少しずつ順位を上げていった。その直後の悲劇だった。
小田原市内の病院に搬送された。脱水症状で低血糖状態に陥ったもので、命に別条はないと診断された。病院に搬送される途中、小野は「すいません。残りどのぐらいでしたか?」と聞いたという。仲村監督は「また来年頑張ればいい。誰も責めたりしない」と、小野の立ち直りを期待していた。【吉松忠弘】
[2008年1月3日9時19分 紙面から]
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