前回15年大会、南アフリカに勝った日本はボーナスポイント(BP)に泣かされた。勝ち点で順位をつける1次リーグで、「4トライ以上(勝敗に関係なく)」「7点差以内の敗戦」で加算されるBPの意味は重大。前回大会で日本代表コーチを務めたサントリー前監督の沢木敬介氏(44)は、その価値を強調する。BPを意識した戦い方ができるかどうかが、日本が目標とするベスト8進出へ、カギを握る要素だという。【取材・構成=荻島弘一】

沢木敬介氏
沢木敬介氏

-前回大会のこともあって、BPの重要性は何度も指摘されていましたが

沢木 大切ですね。リーグ戦の戦い方に影響してくる。例えば前回大会のように、3勝1敗で3チームが並ぶこともある。アイルランドの負けは考えにくいけれど、このパターンが一番影響を受ける。

-2勝1敗で並んでスコットランドと最終戦で対戦するケースでもBPが絡んでくる場合があります

沢木 勝てばいいので、精神的には楽。ただ、そこまで、仮に日本がBPを4取って勝ち点12、スコットランドがBPを1つも取れずに8だとしたら、直接対決で敗れてもBPを1取ればベスト8進出になる。負け試合でも2取れば、2敗でも4。これは1勝分の勝ち点と同じですから。

-特に初戦のロシア戦が重要になりますね

沢木 リーグ戦の進め方が有利になるし、各国が最も格下と思えるロシア戦ではBPを狙ってくるから取りこぼしは避けたい。だから、何が何でも4トライ奪わないと。取っておけば、日本よりも後にロシアと対戦する他国に「BPを取らなければ」というプレッシャーも与えられます。

-アイルランド戦やサモア戦はどうでしょうか

沢木 アイルランド戦はそもそも接戦にもちこまないと勝てない。だからBPを意識した特別な戦い方をする必要はありません。ただ、負けの場合でも、BPを最低でも1は取っておきたい。サモア戦も実力を考えれば、勝つだけではなくBPが欲しい。日本が決勝トーナメント進出を争うのは、アイルランド、スコットランド。だから、この2試合もBPが重要です。

今大会、2勝1敗で並んだスコットランドと対戦する場合をシミュレーション
今大会、2勝1敗で並んだスコットランドと対戦する場合をシミュレーション

3すくみの場合はBPの勝負
3すくみの場合はBPの勝負

-15年大会ではBPは意識していたのですか

沢木 南ア戦は、まったく頭になかった。コーチ陣の中では、負けてもBPをというのはあったけれど、選手とは共有していない。前回は24年間勝っていない中で迎えた大会。とにかく勝利がすべてでした。

-結果的にはBPに泣くことになりました

沢木 サモア戦はBPが必要だというのは分かっていました。ただ、グラウンドで戦う選手たちがまず考えるのは勝利。トライ数ではなく点差。それぐらい、選手はサモアのプレッシャーを感じていました。

-コーチ陣はBPを意識しても、選手には伝えなかったのですか

沢木 具体的には何も伝えていません。BPのことよりも、勝つことが大前提。例えば、南ア戦だって最後の場面で、コーチ陣はPG狙いを指示したのに、リーチはスクラムを選択した。実際にやっている選手にしか分からない感覚ってあるんですよ。

-選手もBPのことは分からなかったのですね

沢木 フミ(SH田中)は「トライ、BP取りにいこう」と話していたみたいですが、そこはリーダーの判断。チームとしては、サモアに絶対に勝つというアプローチでした。

2015年W杯B組 日本のBP
2015年W杯B組 日本のBP

-今回は前回とはBPについての考えも違います

沢木 前回の目標は勝つこと。今回はベスト8に進む大会で、日本が初めてBPを考えて戦う大会です。試合の終盤になれば、BPを取りにいくかの判断が必要になる。特にリーダー陣は考えなければいけない。15年を経験した選手は、その重要性を分かっている。

-それを全員が理解できているかですね

沢木 練習から、シミュレーションすること。「残り何分、何点差、ペナルティーをもらった。何を選択する?」。そこまで必要。リーチが分かっていても、それを共有しないと。

-共有できていない選手がいると、どのようなリスクが出てきますか

沢木 例えば、ラストワンプレーで、3トライ取っていて8点リード。トライを許しても1点差で負けはないという場面なら、4トライ目を狙いにいくべき。その意識を共有していないと、ボールを持った選手が簡単にタッチに出してしまう可能性もあります。逆に、同じ場面でも順位を争う相手だと「7点差以内の負け」でBP1を与えるリスクもある。いろいろなケースが考えられるし、BPは戦略的にも使えるんです。

-1次リーグは台風などの場合は試合は延期ではなく中止。そういうパターンもありえますね

沢木 その場合は引き分けで勝ち点2を分け合います。コーチ陣はいろいろと考えているだろうし、選手との共有も必要。ファンの人には、勝利数だけでなく、BPも意識して観戦してほしいですね。

◆W杯1次リーグ順位決定方法 各組上位2チームが決勝トーナメントに進出する。勝ち=4点、引き分け=2点、負け=0点の勝ち点制で争う。4トライ以上、7点差以内の敗戦には、それぞれボーナスポイント1点が加算される。勝ち点が並んだ場合は(1)直接対決(2)得失点差(3)トライ数差(4)得点数(5)トライ数で決着。ここまで並んだ場合、前回は世界ランキング上位チームが上位だったが、今回は抽選となる。

◆15年大会1次リーグB組 日本が初戦で南アフリカに勝って勝ち点4を手にしたが、敗れた南アも7点差以内惜敗と4トライでBP2を獲得した。日本は続くスコットランドに完敗。その後サモアと米国に勝ったが、BPは1つもとれなかった。日本は南ア、スコットランドと3勝1敗で並んだが、BPの差で3位。W杯史上2度目の「3すくみ」はBPで決着し、日本は3勝で1次リーグ敗退した初のチームになった。