<ブルージェイズ1-0マリナーズ>◇23日(日本時間24日)◇ロジャーズセンター

 【トロント(カナダ)=四竈衛、木崎英夫通信員】また新たな領域に足を踏み入れた。マリナーズのイチロー外野手(36)が、前人未到の10年連続200安打を達成した。あと2本で迎えたブルージェイズ戦で、第2打席に左翼線二塁打を放って王手をかけると、続く第3打席に初球を中前へライナーで運び、152試合目で大台に到達した。10年連続は自らが持つメジャー記録の9年を更新し、通算でも4256安打の最多安打記録を持つピート・ローズ(元レッズなど)の10回に並んだ。メジャー在籍10年の条件もクリアし、将来の米野球殿堂入りが確実となった。

 中前へ、鋭いライナーが飛んだ。5回表の第3打席。ブルージェイズ先発ヒルのツーシームを振り抜くと、イチローの打球は一直線に伸び、中堅の人工芝で弾んだ。オンタリオ湖から初秋の涼風が吹く敵地ロジャーズセンターの1万2590人は、歴史的瞬間を見届けた。味方ベンチ前にはブラウン監督代行以下全員が1列に並び、敬意とねぎらいの拍手を送っていた。

 イチロー

 チームメートがみんな祝福してくれて。「あ、喜んでいいんだ」って思いましたね。2年前のことがトラウマになっちゃってるからねぇ。チームメートの反応を見て、喜んでもいいんだなっていう。それでちょっとほっとしましたね。

 101敗を喫した08年に成し遂げた200安打は、個人記録に走る選手として、一部地元紙が他の選手の声を引用して酷評。今季も2年ぶりの100敗まであと6敗に追い詰められている。胸中には複雑な思いもあった。だが、仲間も、ファンも視線は優しかった。スタンドにヘルメットを高く掲げ一礼。純粋に感謝の気持ちを表現した。

 希代のヒットメーカーが球史に刻み続けた10年連続の偉業は、マイナス要素を振り払い続けた10年でもあった。メジャー1年目のキャンプで、当時のピネラ監督は1番に起用するイチローの成績を、打率2割8分~3割、本塁打10本、30盗塁と予想した。取り囲むメディアの目も半信半疑。有名投手とのオープン戦初対決を前にして「ヒットを打てると思うか?」の問いをぶつけられ、「一生忘れない」と心にしまった。

 イチロー

 最初は侮辱から始まりましたから。でも今日、10年200安打を続けて、ヒットが出ないと「なんで出ないんですか」っていう質問に変わったわけですよね。そういう状況を作れたのはすごく良かったと。僕は10年前とそれほどアプローチとか野球に対する思いとか変わってないですけど、周りを変化させられたことに対してはちょっとした気持ち良さがあるとは言えるでしょうね。

 レベルアップのため、試行錯誤を絶え間なく繰り返すのがイチローである。36歳の今も体脂肪率6%を維持していることは周知の事実だが、メジャー1年目は力負けしないようにと体重を今より約7キロ増やして臨んだ。結果は、新人王、リーグMVP、首位打者、盗塁王の4冠達成。ところが、最高の成績を収めた体を、翌年には元へと戻してしまう。「重い」。いずれどこかに負担がかかることを感じ取っていた。

 技術では「進化という言葉を使うなら今」と話したのが04年の打撃フォーム劇的改造だった。背筋を伸ばすことでバットが寝るフォームに変わり、夏場の爆発的な安打量産に成功。84年ぶりにシスラーを超える年間最多安打記録262本を生んだ。しかし、そのフォームも今は原形をとどめていない。日々、微調整を続けた結果だ。

 イチロー

 (200安打が)簡単じゃないことは僕が一番知ってますからね。それはそれなりの思いがある。

 柔軟な思考と体、そして鉄の意志をあわせ持つイチローが、他の追随を許さない金字塔を打ち立てた。【木崎英夫通信員】