怪物左腕が覚醒した。西武菊池雄星投手(24)が7回3安打無失点で自身4連勝を飾った。最速151キロの剛速球に加え、今季から改良を加えた曲がり幅の少ない高速スライダーを駆使。課題の制球も2四球に抑え、103球でオリックス打線を鎮圧した。昨季沢村賞の金子と投げ合い、天敵から4季ぶりとなる勝利に導いた。未完の大器と言われ続けてプロ6年目。雄々しい星が現役最強左腕への道を突き進む。

 菊池が殻を破った。7回。この回での降板を自覚し、ギアを上げた。ムチのごとく左腕がしなる。剛速球が1本の筋となり、炭谷のミットを通す。糸井への2球目、内角高めに浮き上がる速球で空振りを呼び、後方を振り返った。スピードガンはこの日最速タイの151キロ。「最後のイニングだと思っていた。意識しちゃいましたね(笑い)」。勝利を不動のものとし、さらに球速を追い求めた。

 速球だけではない。進化した高速スライダーでねじ伏せた。糸井を141キロのスライダーで空振り三振。4回も象徴的だった。4番中島の足に当たりそうなワンバウンドの軌道ながら振らせた。T-岡田、宮崎とすべてのアウトが同球種。今季2戦目を終え、手を加えた。「左打者に打たれていた。膨らみの小さな変化にしようと。握りはそのままで、腕の振りを真っすぐに近づけた」と決断を振り返る。

 自己最高の9勝を挙げた13年はチェンジアップが武器だった。だがこの日は2、3球程度。土肥投手コーチは現役時代、自主トレをともにした左腕の伝家の宝刀と重ね合わせる。「岩瀬さん(中日)のスライダーに似ている。打者の手元からギュンと曲がる」。一級品の武器に昇華させた。

 主役を沢村賞右腕から奪った。チームは金子に過去5年間、1勝10敗。今季初対戦で過去と決別したかった。刺客として送り込まれたのは交流戦で3連勝し、前回登板の13日のヤクルト戦で8回無死まで無安打投球を展開した菊池だった。

 金子から最後に白星を挙げたのは11年8月。勝利投手は先代の背番号16、石井一久だった。公私ともに世話になり、尊敬する先輩。後継者として1398日ぶりに金子を止めた。「金子さんみたいな投手と投げられるのはうれしい。緊張感もあった中で、投げられたのは自信になる」。17日に24歳の誕生日を迎えた。「(同僚からは)何ももらってません。拍手だけ、もらいました」。24歳の初陣での快投に、喝采が降り注いだ。【広重竜太郎】