<楽天5-4ソフトバンク>◇29日◇Kスタ宮城

 ガンちゃんが決めた。楽天岩村明憲内野手(32)が延長10回、プロ15年目で初となる逆転サヨナラ打を放った。2死一、三塁で馬原から左越えに2点二塁打。元メジャーリーガーが、極度の打撃不振から2軍落ちを味わい、前日に1軍復帰したばかり。今季ワースト借金8の危機を救った。岩村も、チームも、ここから反攻開始だ。

 二塁を回ると、岩村は両手を思い切り振り上げた。視線の先にサヨナラの走者がホームを踏むのが見えた。ひとしきり、もみくちゃにされ、はい出た先に移籍後初のお立ち台が待っていた。ファンから“岩村コール”が起こる。Kスタ宮城では珍しかった。マイクを向けられても言葉が出てこない。「…。ええ、すいません」。遠い目をした。「いえ、僕は泣きません」。目を赤くしながら、精いっぱいヒーローを演じた。

 土俵際だった。延長に入り1点を勝ち越され、最後の攻撃も2死。そこから走者がたまり一、三塁で打順が巡ってきた。「気は抜かない。まずは1人。(馬原は)球が速いしコンパクトに。センター中心で」とバットを短く持ち、高め154キロを振り抜いた。背走し手を伸ばす長谷川のグラブを打球は越えた。

 5年ぶりの日本球界復帰。松井稼とともに新生星野楽天の看板と目されたが、不振は開幕を迎えても続いた。打率2割にも届かない。上昇気配を見せつつ、壁を超える前、5月13日の試合を最後に2軍落ちを告げられた。今は「自分が招いた結果」と振り返るが、当日は「行ってきます」と話すのがやっと。いつも陽気な男の表情が固まった。

 モチベーションを失いかけたこともあった。厳しいヤジも浴びた。それでも、「若い子の姿を見て初心に帰った」。体のキレを戻そうと、シメのご飯は控えめ。2軍戦が雨天中止になっても雨の中、1人で球場の外周を走り続けた。「わざわざ僕のサインを待ってくれている。これだけは続けたかった」と3打数無安打に終わった遠征先でも、試合後1時間以上、立ったままペンを走らせたこともあった。

 幾分ほっそりした顔のラインが証し。シャープな動きを取り戻した。8回1死一塁、カブレラの強烈な当たりを横っ跳びで好捕。併殺でピンチを救った。そして、試合を締める一打。星野監督は「左手の押しが利いていた。まだまだ借りがある。これからもっと、返してくれるだろう」。岩村は「今朝の占い、みずがめ(水瓶)座が1位だったんです」とおどけたが、ポツリと「泣きたいですよ」。うれし涙はこらえた。残り87試合。借りを返す機会は十分ある。【古川真弥】