<阪神3-0ヤクルト>◇5日◇京セラドーム大阪
いつもより早い出番でも球児は球児だった。2番手榎田に代わって、1点リードの8回2死一塁から今季初めて阪神藤川球児投手(31)がマウンドで仁王立ち。これまで守護神の出番は9回以降の1イニングに限定していた真弓監督だが、禁を破って勝利をもぎとった。苦手を公言する京セラドーム大阪で1回1/3を18球でピシャッと締めて36セーブ目。リーグ単独トップに立った。
今年初めて「扉」は開かれた。8回表2死一塁。真弓監督がベンチを出た。藤川の名を審判に告げる。9回の起用にこだわってきたが、ついに禁を破った。藤川は小走りでマウンドに向かった。「いつもフラットな状態で入る、と決めている」。修羅場をくぐった守護神は、平常心だった。4番畠山との対決。盗塁を許して二塁に走者を背負ったが、関係なかった。三ゴロに封じ、ヤクルトの戦意を喪失させた。
昨年は何度も8回から登板する機会があったが、今季はこれまで1度もなかった。無理を強いれば、終盤に藤川の疲労が蓄積する。真弓監督は「代わりがいる選手ではない」と話したことがある。最高の切り札を出すタイミングを、慎重に模索したシーズンだった。ブルペン担当の山口投手コーチは言う。「アウトカウント、点差、打席、すべてがそろったから。すべての条件を満たさなければならない」。8回の先頭打者から強攻にカードを切る考えはベンチにない。より効果的に、そして疲労を次に残さずに使う。それがこの日だった。
3点リードに開き、藤川は余力をもって、最終回を3人で抑えた。「相手のほうがしんどいのは分かっている。場面的にも難しくなかったかもしれない。首位争いの状況で投げるのとは違う。そういう意味でも楽は楽」。悪夢の同一カード3連敗となった9月29日の神宮。ここでも8回途中から登板する可能性はあったかもしれない。しかし能見が逆転を許し、ベンチで敗戦を見届けた。同じ相手で「イニングまたぎ」は成功した。
あの京セラドーム大阪だった。8月16日の広島戦で勝ち越しを許し、敗戦投手になった。そのとき、藤川はこのドーム球場のマウンドを「苦手」と言い切った。その相性の悪い舞台で、8回からの登板になったのも、何かの因縁だ。「自分の心に言い訳をしたくなかったから」。己と向き合い、山をひとつ乗り越えた。さまざまな要因が重なっての36セーブ目。「みんな、いいゲームをしようと思っている。しようもない試合よりも、納得してもらえる試合をしたい」。この日の観客も2万人を少し超えただけ。それでも、この熱いパフォーマンスがあれば、満員の声援は帰ってくる。【田口真一郎】



