国民栄誉賞を受賞した巨人の長嶋茂雄終身名誉監督(77)が聖地に帰ってきた。9日、東京都の旧多摩川グラウンド(現多摩川緑地広場運動施設内硬式野球場)で15年ぶりに行われた巨人の練習を視察。2軍選手、首脳陣を前に「聖地、多摩川でやることは素晴らしい」と訓示し、巨人魂を伝承した。また、この日再渡米した松井秀喜氏(38)の指導者就任について「時間がたてば、いろいろ出てくると思う」と含みを持たせた。

 長嶋氏が血と汗の染み込んだ多摩川グラウンドに足を踏み入れた。「土がずっと前と一緒だな。すごく、いい風を感じる」。軟らかい茶色の土、そして外野奥からの川風を浴びて、ノスタルジーな気持ちに浸った。1958年の入団から思い出の埋まった地に、この日は孫のような2軍選手が集結していた。練習前に訓示で思いを伝えた。

 長嶋氏

 今日は暖かいな。本当にありがとう。聖地多摩川でやることは素晴らしい。さぁ行こう、ゴー!

 15年ぶりの多摩川での練習は岡崎2軍監督の発案だった。「今は多摩川を知らないという選手もいる。先輩が汗を流して現状があることを知って欲しかった」。伝統と歴史を知ることで見えてくるものがある。その思いに長嶋氏が応えた。普段なら病院でリハビリを受けている時間帯だったが、予定を変更して多摩川に足を運んだ。

 約1時間20分の視察中も、愛する巨人の未来を気に掛けていた。岡崎2軍監督に「若い選手でいいのはいるか?」「故障者のボウカー、由伸、谷、小笠原を早くどうにかしないとな」と質問を続けた。岡崎2軍監督が「オーラがある人の近くに行けば絶対にいいものをもらえる」と呼び寄せて、あいさつさせた大田には「早く(右太もも裏痛の)体を治して、1軍目指して頑張れ」と言葉を掛けた。

 この日、米国に再び旅立った愛弟子の松井氏も温かく見守る。前日8日も首相公邸での夕食会に同席したが、巨人での指導者就任の話題については「そういう話はあまり出なかった」。それでも「時間がたてば、いろいろ出てくると思う」と含みを持たせるように、近い将来の就任を予告した。

 多摩川に帰ってきた長嶋氏を、約1000人のファンと、メディア100人が追い、テレビ局のヘリコプターも上空を旋回した。「聖地は昔も今もきれいだった」と漏らしたミスターの目には永遠の風景が映っていた。【広重竜太郎】

 ◆長嶋氏と多摩川グラウンド

 水原監督時代の55年6月11日に巨人専用の練習場として開場。長嶋氏が若い頃には王氏らと1列になって小石を拾う場面が見られ、グラウンド向かいにあり練習後に空腹を満たした「グランド小池商店」は有名。64年からは同球場で第1次キャンプを張るシーズンがあり、長嶋監督が初めて背番号90のユニホームを着てグラウンドに登場した75年1月19日には1万5000人ものファンが詰め掛けた。