WBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥(23=大橋)が6回1分1秒、TKO勝ちで4度目の防衛に成功した。前WBA世界同級王者河野公平(36=ワタナベ)と対戦。6回に強烈なカウンターの左フックでダウンを奪うと、再開後に一気の連打。2度目のダウンを奪ったところでレフェリーが試合を止めた。初の日本人との防衛戦に完勝した井上は戦績を12戦全勝(10KO)とし、来年のビッグマッチ実現を期待した。

 狙い澄ました左フック一撃だった。井上が「作戦通り」と振り返った6回。プロ43戦目の経験豊富な河野が距離を詰めて左を出してきたところに合わせ、体をやや後退させながら、左拳をねじ込むように顎に突き刺した。河野は腰が砕けたようにキャンバスに沈む。前王者も10カウント直前に立ち上がる意地を見せたが、勝負はついていた。再開直後にロープ際で連打。大の字で動けないほどのダメージを残す豪快なKO劇で試合を締めくくった。

 試合開始から徹底して左ボディーで効かせ、河野を接近戦に引きずり込んだ。すべては「想定内」。腹への攻撃を嫌がりパンチで距離を詰めてくるのを誘うと、最後はカウンター。世界戦初の日本人対決を理詰めのような展開で制すると「独特なテンポでやりにくかったが、出てくるしかないパターンに持ち込めた」と満足そうにうなずいた。

 名誉挽回の一戦だった。直前の2試合は右拳、腰と負傷の影響で思うような戦いができず、悔しさが募った。気持ちが晴れたのは、9月のV3戦直後に訪れた米国での経験だった。対戦が期待される「怪物」ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が4階級制覇を達成した試合を観戦。ライバルが本場のメインイベントを務め、拳で観客を酔わせる姿に、熱い思いがわき上がった。「自分もここに来たい。生活からすべて変える-」。

 帰国すると、すぐに行動に移した。これまで接点のなかった元3階級王者長谷川穂積の連絡先を関係者に聞き、連絡を取った。長谷川が住む神戸市内を訪れて会食する機会を得ると、長期政権を支えた調整法、モチベーションの保ち方など質問攻めにした。同行した妻咲弥さんも長谷川の妻泰子さんと連絡先を交換し、減量食のアドバイスをもらえるよう頼んだ。

 今回の試合に向け、スパーリングは従来の半数の70回に抑え、体重もこれまでより3キロ軽い57キロをキープ。腰痛対策として自宅のベッドを硬いものに買い替えるなど、体に良いと思うこともすべて試した。3戦ぶりに充実した表情で控室に戻ると、実感を込めて言った。「どこも痛めず、戦い抜けたのは自分にとって大きい」。

 苦しんだ1年を完勝で締めくくり、来年はいよいよゴンサレスとの夢対決に向けて動きだす。「まだまだ満足していない」。井上にしかできない戦いが待っている。【奥山将志】

 ▼具志堅用高氏(元WBA世界ライトフライ級王者)のコメント 河野がいいファイトをしたから井上も力を出し切れた。井上は左の使い方や組み立てがうまく、パンチの速さに相手が対応できない。一流のボクサーだ。

 ▼長谷川穂積氏(元世界3階級王者)のコメント 素晴らしい試合。井上選手はすべてがパーフェクトですね。

 ▼粟生隆寛(元世界2階級王者)のコメント 井上選手は途中(河野を)誘っていた。いろいろ考えながらやったと思う。