ボクシングのWBC世界ライトフライ級王者井上尚弥(21=大橋)が、王座を返上し、12月30日に東京体育館で2階級上のWBO世界スーパーフライ級王者オマール・ナルバエス(39=アルゼンチン)に挑戦することが6日、発表された。2階級で2ケタ防衛を達成した名王者を相手に、国内最速のプロ8戦目での2階級制覇挑戦となる。「最も力が出せる」と話す階級で、井上が大勝負に打って出る。

 世界的なビッグネームとの対戦が決まった井上の目は、冒険を楽しみにするかのように輝いていた。「どうせ挑むなら、スーパーフライ級で一番実績のある強い王者とやりたいと思った。自分にとっても適正階級だし、最大限に力が発揮できる。こんな強豪と日本で戦えることに感謝している」。笑顔を見せながらも、言葉には力がこもった。

 9月の初防衛戦をクリアし、10キロに及ぶ減量苦から「ライトフライ級卒業」を決めた。陣営は当初、フライ級の王者を中心に次戦の相手を探していたが、交渉の過程で挙がった「ナルバエス」の名前に井上が飛びついた。大橋会長に「どうしてもやりたい」と直訴。大橋会長も「強い思いを感じた」と対戦を決断し、「苦しい試合になると思うが、2階級制覇を実現して欲しい」と背中を押した。

 これまで来日した海外選手の中でも、トップクラスの実績を持つ大物だ。鉄壁のガードと「ハリケーン」の愛称を生んだ連打を武器にWBOフライ級王座を16度防衛し、同スーパーフライ級王座も11度防衛中。3階級制覇を目指したノニト・ドネア戦で唯一の黒星を喫したが、約12年間世界王座に君臨し続けるなど、圧倒的なキャリアを誇る。

 井上にとってはプロで対戦する初のサウスポーとなる。だが、既に左構えの選手と実戦練習を繰り返し、来週からは元世界王者のツニャカオともスパーリングを予定するなど、対策は万全。父の真吾トレーナーも「苦手意識はない」と断言する。井上は試合のイメージを膨らませ「12回やるつもりで戦う。できれば腹で倒せれば」と勝利のビジョンを口にした。

 勝てば井岡一翔の持つ2階級制覇の最速記録(11試合)を塗り替える一戦となるが、目指す先は、具志堅用高の保持する男子国内最多防衛記録(13回)の更新だ。「複数階級制覇とかは考えていない。この階級で長期防衛していきたい。ここから具志堅さんの記録を狙っていきます」。井上の「怪物伝説」第2章がスタートする。【奥山将志】