「まことちゃん」などで知られる漫画家楳図かずお氏(77)が映画監督に初挑戦したことが10日、分かった。自分を主人公にしたホラー映画「マザー」で初めてメガホンをとった。脚本も担当した。楳図氏役の主演には「半沢直樹」で注目された歌舞伎俳優片岡愛之助(42)を起用した。撮影は終えており、松竹配給で来年9月27日公開。

 漫画界の奇才が「恐怖漫画」の世界観を自らのメガホンで映画化する。楳図監督は「モノを作る人間なので、こけないものを作る覚悟です」と並々ならぬ覚悟を示した。06年「猫目小僧」のミュージックビデオの演出を手掛けたことはあるが、映画はこれが初挑戦。これまで「まことちゃん」「漂流教室」などが実写映画化されたが「『これはすごい』と思わせる新しいひねりが入ってなかった。遠慮されちゃったのかも」。ならば自分でという思いが77歳での映画監督挑戦につながった。「サイコ」などで知られるヒチコック映画の大ファンで映画監督への憧れは30年以上も前からあった。「『サイコ』、サイコーです。順を追って恐怖が増す見せ方がいい。亡くなった時に映画を撮りたいと思った」。

 「マザー」は楳図氏の生い立ちを本にしたいという編集者が取材を進めていくうちに、創作の原点に母親の存在が大きいと知るが、やがて怪奇現象に巻き込まれていくというホラー作品。楳図監督は「見る夢が現実になる構想は昔からあった」という。昨年春ごろから脚本を書き始め、絵でコンテを描いた場面もある。

 劇中の主人公、楳図氏を演じたのは片岡愛之助。楳図監督は「ほんわかした雰囲気が役に向いてる。最後に記念写真を撮ったら何か同じ人に見えてきた」。

 片岡は、依頼を受けた当初は「全然似ていないのに大丈夫かと心配になりました」というが、代表作「まことちゃん」なども愛読しており、「実際にお会いすると繊細で優しい方。台本が面白く、独特の世界観や描写がたくさんあってうれしくなった」と意欲を持って撮影現場に入った。撮影はテンポよく進んだが、撮影カットは多かったという。舞台出演の合間に駆け付けることも多く、ほとんど休む間もなく、カメラの前に立った。作品について「ただのホラー映画ではなく、男女、親子、友情とさまざまな形の愛などいろいろな要素が含まれている」と話している。

 ◆楳図(うめず)かずお

 本名・楳図一雄。1936年(昭11)9月3日、和歌山県生まれ。55年「森の兄妹」で漫画家デビュー。66年「ねこ目の少女」などで独特の世界観が注目され「恐怖漫画」のジャンルを確立。75年「漂流教室」で小学館漫画賞受賞。76年「まことちゃん」が爆発的にヒット。95年「14歳」を最後に執筆活動をしていなかった。バンドのボーカルとして音楽活動もしている。

 ◆楳図漫画の映画化

 68年「蛇娘と白髪魔」が初映画化、楳図は運転手役で出演。80年「映画まことちゃん」、87年に大林宣彦監督で「漂流教室」と代表作が実写化された。05年に漫画家活動50周年を記念したオムニバス作「楳図かずお恐怖劇場」、08年「おろち」などが実写映画された。