優作さんに日刊スポーツ映画大賞特別賞/1989年12月9日付
最愛の夫、松田優作さんは、39歳の若さで世を去った。遺作となった米映画「ブラック・レイン」で強烈な個性を見せた松田さんの、映画界に残した功績に日刊スポーツ映画大将特別賞が贈られた。妻の熊谷美由紀さん(28)は「優作が生きていれば、きっと大喜びしたと思います。自作が評価されることを、何よりもうれしがった人でしたから。この新聞を遺影に供えます」と、かみしめるように語った。
遺作「ブラック・レイン」のロケ地のアメリカからは、たびたび家族の元へ国際電話もかかってきた。「電話口で“アメリカはいいぞ”って、子供のように話していました。優作にとってアメリカは、偉大な映画の父の国なんです。きっと死ぬなんて考えていなかったはず。アメリカと言う国に大きく心を動かされていたようです」。がんの告知を受けながらも、作品の完成にかけた夫の姿を思い出すと、言葉が涙でにじむ。
そんな松田さんも、3人の子供の前では良きパパであり、良き夫だった。勝新太郎が、息子の雄大と共演した「座頭市」を見て、「素晴らしいなあ」と話していたというから、親子共演の映画を考えていたのかもしれない。「胸を張って“オレは焼きもち屋だ”っていばってましたよ。短気で頑固な優作でしたけど、決してウソはつかなかった。私にとって最も尊敬する人でした」。
松田さんが亡くなって1カ月が過ぎたが、出演した映画「家族ゲーム」「野獣死すべし」など、松田さんは今でもスクリーンの中で輝いている。「私ができることは、優作が残した夢を伝えていくこと。そのためにも、優作が愛した映画界と離れたくない」。やがて女優としてカムバックする意思ものぞかせた。最愛の夫を亡くした彼女にとって、その夫がこよなく愛した子供と、映画とともに時を重ねていくことが、何より生きるエネルギーとなるはずだ。
[1989年12月9日付]