自民党の中堅・若手議員らによる「文化芸術懇話会」が開いた勉強会が、安倍晋三首相肝いりの安全保障法案の審議に、影響を与えかねない流れをつくりつつある。報道関係者に公開された冒頭の数分以外は、非公開。本来は「内々」の勉強会だったという。報道機関への「圧力」など、問題になっている発言の数々は、非公開の場でのもの。先方からすれば、「なぜ非公開の発言が漏れるのか」という感覚もあるのだろう。

 非公開の会合を取材する際、メディアは「壁耳(かべみみ)」という手法を用いる。自民党本部の会議室の場合、ドアや壁に耳を当て、耳に神経を集中させ、漏れ聞こえる発言を、メモするやり方だ。冒頭のあいさつが取材できても、その後は報道陣に非公開という会合は、今回に限らず、珍しいことではない。

 「壁耳」では、大勢の報道陣が壁やドアに群がる。場所取りに失敗したり、場所を確保しても聞こえない時がたびたびある。一方、紛糾した話し合いの場では、部屋の中からドアの外まで声が響くこともある。

 先輩記者に聞いた話では、昔は、メディアが壁の外で聞いていることを踏まえて、あえて聞こえるように発言していた議員もいたという。「壁耳」は、取材する側と、される側の信頼関係という暗黙のルールのもとで、これまで続いてきたように思う。

 自民党の会議は、党本部が入る「自由民主会館」(1966年完成)で行われる。一方、党本部が民間のビルに入居している民主党が政権の座にあった間は、会議が、衆・参議員会館の会議室で行われていた。

 TPPや消費税など、党内が対立した案件が話し合われることも多かったが、2010年に完成した現・議員会館は、ドアの「密封性」が高く、「壁耳」が通用しないことも多い。あきらめて廊下に座り、議論終了を何時間も待つ時間は、自民党政権との「違い」を実感するひとときでもあった。

 その民主党政権から自民党へ、再び政権が移った。「壁耳」による取材方法が続いてきたことは、自民党が持つ「懐の深さ」も大きいと思っている。メディアへの圧力ととられかねない発言が表面化した、今回。歴史の中で築かれてきた「懐の深さ」は、いつまでも残っていてほしいと思うのだが…。