日本第2戦(24日、対セネガル)の開催地エカテリンブルクでは2年前、市民のエイズウイルス(HIV)感染者が急増し、保健当局が大流行宣言を出す事態となった。人口約150万人(当時)に対し、1・8%にあたる約2万7000人が感染。市民らに話を聞くと、街は当時大パニックに陥ったという。その後、流行は収まり、現在は落ち着きを取り戻したというが、夜の街で働く人たちは、多くの外国人が集まるワールドカップ(W杯)が始まり、危機感を募らせていた。

 W杯開催中で、性産業も盛り上がりを見せているのかと想像していたが、エカテリンブルクの夜は驚くほど静かだった。繁華街でも人はまばら。警察が2人1組でパトロールする姿が目につき、路上で男性を勧誘するような女性は1人も見かけなかった。

 街中心部のストリップクラブを訪れると、マネジャーと名乗る40歳くらいのこわもての男性が対応してくれた。「W杯開催中で、警察は取り締まりを強化している。この街で観光客や選手にHIVが感染したら、大問題になるからね」。

 16年11月、「50人に1人がHIVに感染した」とニュースが出た。エカテリンブルクを州都とするスベルドロフスク州のホームページによると、昨年3月31日時点で州全体(人口約425万人)のHIV感染者は8万9444人。72・6%が18~39歳の若者で、原因の50・6%が性交だった。

 この男性によると、夜の街で働く人にとっても想像していなかった事態で、当時は大混乱。ロシアでは売春自体が違法で、この街が特別、性産業が盛んな地域でもないという。男性は「本当に驚いた。私の店は合法で女の子の売春も禁止しているが、検査には行ってもらった」と振り返った。知り合いが営業していた違法なマッサージ店は、取り締まりの強化が原因で店を閉めてしまったという。

 現在の街の状況について健康当局を取材したが、「忙しい」との理由で回答は得られなかった。ストリップクラブで働く女性たちによると「今は街も落ち着きを取り戻し、安全な状況」という。ただ、SNSなどで売春を呼び掛ける女性は多いといい、「HIVにかかる可能性があるとしたら、彼女たち。貧困層だと、W杯期間をチャンスだと思う売春婦も多いと思う。気をつけた方が良い」と忠告した。【太田皐介】