今年の国会論戦は、安倍晋三首相や閣僚らによる、はぐらかしや「論点ずらし」の手法が目立った1年だった。質問に正面から答えず自身の主張を繰り返し、ついには質問を完全無視する大臣まで登場。政権の「説明力」に、焦点が当たった。政権の巧妙な論点ずらしをご飯の食べ方にたとえ、「ご飯論法」の言葉が世に出るきっかけをつくった法大キャリアデザイン学部の上西充子(みつこ)教授に、話を聞いた。日刊スポーツは「今年のニュース掘り起こし2018」で、1年の現場を振り返る。
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上西氏が注目されたきっかけは、今年5月のツイッターへのこんな投稿だった。
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Q「朝ごはんは食べなかったんですか」
A「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたがそれは黙っておきます)」
Q「何も食べなかったんですね?」
A「何も、と聞かれましても、どこまでを食事の範囲に入れるかは、必ずしも明確ではありませんので」 そんなやりとり。加藤大臣は。
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答えているようで、質問の趣旨に沿った回答とは言い難い。働き方改革関連法案審議で、野党の追及をかわす加藤勝信厚労相(当時)の答弁のからくりを、ごはんの食べ方にたとえて“暴露”したものだ。
高度プロフェッショナル制度でのヒアリングに関し、加藤氏は「私もいろいろお話を聞く中で、その方は(略)そういった働き方をつくってほしいと要望をいただいた」と答弁。上西氏は「いかにも要望を聞いたように聞こえるが、その後、自分で話を聞いていないと分かった。指摘されると『把握した例として紹介した』『直接話を聞いたとは言っていない』。加藤さんはずらし方が巧妙。高圧的な面を感じさせないだけに悪質さを感じた」という。
労働問題の専門家。同法案審議は最初から最後までウオッチ。「大臣の個人的資質ではなく(政府の)組織ぐるみ。いかにはぐらかすか、戦略的に練られている」と感じた。「丹念に追い、指摘する人がいなければ」と活動を続けた上西氏の指摘は、ブロガーの紙屋高雪氏が「ご飯論法」と命名し、年末の新語・流行語大賞トップテンにも選出。「社会に石を投げまくった1年だった」と振り返る。
今の安倍政権について、「反対の声を聞かずに押し切り、問題にふたをする。そんな姿勢が『ご飯論法』を手掛かりに、かなり表面化してきたのではないか。見えてくれば『安倍さんしかいない』と言っている場合ではないと、認識が変わるのでは」と話す。「日頃から国会審議を見ている人は、議論のすれ違いに気づきやすくなったのではないかと思う。だんだん、ごまかしが利かなくなっている」と、手応えも感じる。
その上で「答弁を書くのは官僚。官僚も政権の言いなりになっている。そこまでしないと官僚が生き残れない状態なら、根は深い。政府全体の姿勢の劣化ではないか」と、指摘した。
安倍内閣の支持率は今月、複数の調査で下落。直前に改正入管難民法などの強行採決、辺野古沿岸への土砂投入などが続き、永田町を取材しても「強行ぶりが年々ひどくなってきた」との声を聞いた。「支持率はそう下がらなくても、個々のテーマでは反対が賛成を上回る。きちんとやってほしいという国民の思いが、果たして政府に伝わるのかと思う」。上西氏は危機感を示した。【中山知子】
◆上西充子(うえにし・みつこ)1965年(昭40)、奈良県生まれ。東大卒。日本労働研究機構(現在は労働政策研究・研修機構)で研究員として、企業での職業能力開発や公共職業訓練、フリーター問題などを調査研究。03年、法大キャリアデザイン学部設立に伴い専任講師。13年、教授に就任。労働問題に詳しい。国会パブリックビューイング代表。