60年代から続く習慣

 ブラックフライデーといえば、アメリカでは感謝祭のプレゼントの売れ残りを大処分市する激安販売イベント。言葉が似ているため1987年の株の大暴落「ブラックマンデー」と関連がありそうだけど、実は60年代から続く習慣らしい。

 日本でも近年、この習慣にならってブラックフライデーをビジネスにつなげようという傾向があるが、イタリアでもブラックフライデーは浸透しつつある。

一日ではなく1週間

 アメリカや日本では「フライデー」と着くのだから感謝祭(11月の第4木曜日。日本では勤労感謝の日に相当)の翌日の金曜日・一日と思われがちだけど、イタリアでは、そこから1週間がブラックフライデー(ウィーク)なのだ。

 今年の初日。僕は毎朝メールを開くことから一日が始まるのだけど、メールソフトが一気にどどどどーっとBlack Fridayの文字で埋め尽くされた。あえてイタリア語に訳せずに英語のまま、Black Friday。

 イタリアでもハロウィーンは近年、お祭り騒ぎになっていて、アメリカの風俗が野放図に持ち込まれ、そして拡散する傾向にはあるのだけれど、ブラックフライデーの場合はイタリアならではの理由があるようだ。

Black Fridayののぼりをかかげるゲームショップ
Black Fridayののぼりをかかげるゲームショップ

店頭「バーゲンセール」看板は違法

 広告代理店に勤めるイタリア人の友人曰く。

 「イタリアでは1月と7月のSaldi(サルディ=バーゲンセール)を除いては勝手に店頭にSaldiの看板を出すことは法律で禁じられている。これは市場の均衡を保つ目的であり歴史もある。もちろん、店内でSconto(割引)との表示を出すことは自由だけど、それでは宣言効果は得られない。そこで、ショップなどでは法に抵触せずにバーゲンセールをアピールする方法を常に模索しているわけです」

 イタリアで最初にブラックフライデーの文字を用いたのはAmazon Itだそうだ。3年前のこと。これをきっかけに、去年からネットを飛び出し模倣をするショップが現れ、今年はこれを商機と思った広告代理店を巻き込む形でブラックフライデーはパンデミック(世界的流行)を起こした状態だ。

クリスマス前に売れ~っ

 しかし、なぜ1日だけでなく1週間なのか?

 「ブラックフライデーは11月の末にあたり、イタリアの消費経済にとってはとても重要な時期なのです。なぜなら、俗に1年の20%の消費がナターレ(イタリア語でクリスマスを意味する)に集中すると言われているですが、クリスマス大商戦でもSaldiの言葉は使えないので、前倒ししてこのブラックフライデー週間に売ってしまおうと考えたわけです。とりわけ、衣料品に比べて家電品販売業者はふだんセールの言葉とは無縁なので、この習慣を歓迎しているようです」

客50%増&ローマではプラス25%売り上げ

 で、今年のブラックフライデー。この目論見は見事に当たり、イタリアの大手通信社ANSAによれば、ブラックフライデーの客は50%増し、首都ローマでは10~25%以上の売り上げ増となった。

 毎日僕が聞いているラジオ「RTL102.5」でも「ブラックフライデーで買った役に立たないもの」と題してリスナーからコメントを募集。「すごく安かったので傘を買いました。この数日、ぜんぜん雨は降らないんだけど」「安さに釣られて美顔器。でも、結局、ぜんぜん使わない」などと、イタリアのラジオ番組にもハガキ職人はいるのか、と思わせるようなネタ満載で、不況とはいえ笑顔でお金が飛び交う1週間ではありました。(イタリア・ミラノから新津隆夫。写真も)