アイス・キューブやドクター・ドレーらを輩出

 アイス・キューブやDr.ドレーらを輩出した80年代の伝説のヒップホップグループN.W.A.を描いた映画「ストレイト・アウト・コンプトン」が、予想をはるかに超える大ヒットとなっていますが、この映画のタイトルになっているコンプトンはロサンゼルスの南に位置する全米で最も治安の悪い都市の1つです。

映画「ストレイト・アウト・コンプトン」のポスター。日本公開は未定です。写真は映画公式HPから
映画「ストレイト・アウト・コンプトン」のポスター。日本公開は未定です。写真は映画公式HPから

 タイトルを直訳すると、「コンプトンからまっすぐに出てきた」という意味ですが、「俺たちはコンプトンから出てきたぜ!」というような意味合いがあります。そのタイトルからも想像できるように、コンプトン出身の彼らは、コンプトンの住民や黒人たちにとって英雄だったことがよくわかります。

ギャングの町のイメージ

 コンプトンはLAに住んでいる人なら、「絶対に近づかない方がいい」と1度は言われたことがある場所です。ドラッグや抗争などギャング絡みの事件が多発している地域としてあまりにも有名で、殺人事件の発生率の高さも群を抜いています。人口の大半がアフリカン・アメリカンとヒスパニック系が占めており、世間一般のイメージは「コンプトン=ギャング、ドラッグ、抗争、殺人事件」といったネガティブなものばかり。町全体もどことなく汚くて整備されていない物騒な雰囲気で、近寄り難い感じがします。銃声が聞こえるなんてことは日常茶飯事だし、道端に注射器が落ちていたりするのも当たり前といった場所で、車で通過することさえ敬遠される理由がわかります。そんなコンプトンを一躍有名にしたのが、80年代に活躍したN.W.A.だったわけです。

映画「ストレイト・アウト・コンプトン」にはアイス・キューブやDr.ドレーが製作に名を連ねています。写真は映画公式HPから
映画「ストレイト・アウト・コンプトン」にはアイス・キューブやDr.ドレーが製作に名を連ねています。写真は映画公式HPから

 N.W.A.のメンバー5人はそんなゲトー、コンプトンで生まれ育ち、1986年にコンプトンで結成されたグループとして、初めて全米を席巻する伝説を築いたことで知られています。映画ではグループ結成前から91年の解散後までが描かれていますが、コンプトンで実際に撮影も行われており、コンプトンという町がこの作品によって再び注目を集めています。劇中ではドラッグや銃も登場しますが、実際に本物のギャングだったのは95年にエイズの合併症で亡くなった中心メンバーのイージー・Eだけで、それ以外の4人は普通の青年だったことが明かされています。

警察官と対立した歌詞

 しかし、彼らの歌はコンプトンの日常やそこに住む黒人たちを代弁したような内容が多く、テレビやラジオでは放送できない禁止用語が満載。特に劇中にも登場する大ヒット曲「ファック・ザ・ポリス」は、「くそったれ、警察」という歌詞の連発で、これが原因でギャングと警官の対立が勃発したという歴史もあります。

 今作にN.W.A.のメンバーは出演していませんが、創設メンバーであるアイス・キューブやDr.ドレーが製作に名を連ねており、N.W.Aはこの映画をきっかけに再結成する噂もあります。しかし、低所得者が多いコンプトンには映画館はなく、住民たちはコンプトンでこの映画を観ることができないのが現実なのです。そんな中、16年ぶりに映画にインスパイアされた新アルバムを発売したDr.ドレーは、印税をすべてコンプトンに寄付することを発表。この映画のヒットと印税が、コンプトンの治安改善に役立つことを願うばかりです。

 なお、メンバーは現在、それぞれが個々でラッパーや音楽プロデューサー、俳優、映画監督などで活躍中です。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。2枚の写真は映画「ストレイト・アウト・コンプトン」のポスター。公式ホームページから)