04年。中畑氏はアテネ五輪で日本代表の「監督代行」を務めた。経験者だからこそ、「対米国」の意識は強い。

 中畑 アメリカの作ったスポーツだけど、日本にとってもう「国技」じゃない、野球というのは。野球が世界に認められるためにはオリンピックに競技として参加しないとダメなんだ。アメリカに追いつけ、追い越せって、巨人、故・正力松太郎の遺訓にもあるんだけども。五輪で優勝する価値って全然違う。

 現在、野球の国際大会はWBCやプレミアが存在する。だが、WBCにおける米国主体の運営法方に疑問を抱いていた。

 中畑 五輪で勝って、本当の「国技」にするというくらいの覚悟が欲しい。もうベースボールじゃないんだ。「野球」の時代が来たんだっていうくらいはっきりさ。日本からメッセージを送れるくらいにならなきゃ。いつもおんぶに抱っこみたいな形でいるじゃない、アメリカに。言われるがまま。そうじゃなくて、もう独立していいんだよ。この競技は。「野球」なんだよ。日本の競技なの。ルールだって、日本の野球の規則を作っていけばいい。

 怒りの原点は真剣勝負が生まれない、土壌にある。

 中畑 アメリカは本当の代表チームをつくれって。3Aとかの選手が参加する大会つくったってファンは興味を示さないよ。アメリカでやる時だけメジャーの選手を出す。本当にふざけていると思う。日本だけが真剣にやっても、オリンピックの中で野球の価値はつくれない。日本が勝てない国がないっていうのは真剣勝負にならないからね。

 日本が世界をリードしていく存在になるために、スターの出現を願う。

 中畑 野球界が復活しないといけないよな。ファンが本当に選手、試合を見たいと思ってきてくれているのか、野球界は考え直さないといけない。長嶋さんが言った「野球界の伝道師」ってどういうことかだよ。球界を背負っていくスーパースターが出てこない。長嶋さん、王さんは球団に所属していたけど、球界を背負ってたんだよ。五郎丸を見てみなよ。コメントがしっかりしているじゃない。ラグビー界をなんとかしたいという熱意がすごく伝わって来る。今、そんな選手が野球界でいるか? その自覚を持った魅力ある選手が出てこないと。そういう選手がオリンピックで活躍すれば世間も、球界も変わってくる。

 DeNAの監督時代も日本球界を盛り上げてきたという自負はある。ならば、世界中が注目する東京大会で、再び五輪チームを率いたい気持ちはあるのだろうか。

 中畑 その時になれば、どうなのかな(笑い)。でもプレッシャーはハンパないぞ。今度やったら死ぬんじゃないか。でも、失敗した部分とか俺の辞書の中にはあるから。それをどこかで役に立てられたらいいなというのはある。もしチャンスがあるならばね。どうせやるなら、今度が最初で最後になるしな(笑い)。

 東京五輪での野球復活が、野球人気、そして福島の復活につながっていく。

(2016年1月27日付本紙掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。