<アトランタ&シドニー五輪出場 陸上男子100メートル日本記録保持者 日本陸連強化委員長 伊東浩司(46)>

 日本陸連では11月に新しい強化委員会が発足しました。強化の単位はマラソン部などのブロック制から「男子400メートル障害」「男子3段跳び」など種目ごとにしました。リオ五輪銀のリレーやマラソンが注目されますが、他競技と比べるとメダルも入賞も多くない競技団体。母国開催の64年東京五輪は銅1個、91年世界選手権は金と銀1個ずつです。20年まで4年を切りブロック制で横一列にやる段階ではない。短期決戦のイメージです。リオで一定の競技レベルを示した種目を中心に強化を進めます。

 麻場前強化委員長の時から危機感はありました。東京で勝算があるか。陸上競技全体をみると手放しで喜べるような状況ではない。今までの歴史を振り返っても、タイム=世界の順位では絶対ない。節目節目の報告書を見ると「もう少し世界との差を知っておくべきだった」「想像よりも暑かった」「寒かった」というのが多い。64年東京五輪も希望的でした。記録で見たらいくつ入賞とか。今までの陸上の大きな失敗です。希望的な観測は、組織の中では度外視するべきです。

 例えば男子100メートルで山県は限りなく世界に近いでしょう。一方でケンブリッジや桐生は、世界の8人(決勝進出者)との距離感を約3年でどう縮めていくのか。世界に最も記録が近い種目でもこれが現状です。種目ごとに何をすべきか、考える必要があります。

 今まで大きく組織を変えるのはほぼタブーでしたが、今回は横川会長、尾県専務理事に理解していただきました。現状認識と危機感に関して同じ気持ちになれているのかなと思います。

 東京五輪では時差がありません。今までのように午前中の予選で敗退し、夜のセッション(準決勝、決勝)に日本人が全く出てこない。それでは20年以降の陸上が心配になってしまう。

 メダルラッシュになる他競技も出てくる。陸上は内向き(国内的)にはいいスポーツだと思いますが、世界の位置でいうと完全にマイナー。ひとつ大きなものが外向き(世界的)に出るとパッと明るくなり、インパクトもすごいですが、大きなくくりでメジャーではない。「日本人初」など内向きの希望はひとときは活字になるんですが、続きません。五輪は勝負の世界なので、結果を求められます。「9秒台が出た」「日本記録が出た」というのは陸上を愛するファンや関係者の方々で喜んでいただいて、我々は内を向かずに少しでも目線を上げていくようにしたいと思っています。


(2016年12月21日東京本社版掲載)

【注】年齢、記録などは本紙掲載時。