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玉乃光に合う肴

焼き鱧と焼き松茸のご飯<天ぷら 松>

「天ぷら 松」ご主人 松野俊一さん  古くから酒の守護神として崇められてきた松尾大社の朱色の大鳥居を臨む神聖な領域・松尾。この地を蕩々と流れる桂川の対岸に、「天ぷら 松」がある。表には「天ぷら」と書かれた赤い提灯が掛けられているだけで、車窓から注意して見ていないと、まず通り過ぎてしまいそうな、目立たぬ佇まいだ。「うちは、天ぷらだけと違います。天ぷらと書いておけば、居酒屋と間違えて入られるお客様もいない。常連さんに育ててもらっている店です」。ご主人の松野俊一さん(61)は柔和な笑みを浮かべ説明した。
 生まれは祇園。京料理の名門・松野家の出身で、ニシンそばで有名な松葉やウナギの松野は同族だ。それでも主人は地元・立命大では柔道に明け暮れたという変わり種。茶懐石の名店で修行後、松尾に独立したのも、都心の喧噪から離れ、あえて遠方でも食べに来て下さる自分の客人のために料理を作りたかったからだと言う。そして言葉に重みがある。「仕事をすることで、お客さんが喜び、自分も高めててもらえる、そんな仕事がしたかった」。

究極の肴

シャコのすり身と里芋の汁物

 シャコと里芋の汁物 里芋とオクラを細かくすりおろし、トロトロにした吸い物の上にシャコを重ねる。「まず半分だけ飲んでください」。主人に勧められるままに椀を傾ける。ほどよい喉ごしが心地よい。
 ここで登場したのが「シャコの甲羅から取ったダシ汁」だ。赤みがかったソースで里芋汁にかける。これが不思議。ゆでたシャコの独特の甘味と、甲殻類特有の少し塩気のある「海の風味」と言うべき味わいが混じった絶妙な味に変わった。さっきまでのシンプルな里芋汁とは、まったく異なる風味が楽しい。

秋の丹波産黒豆の天ぷら

 秋の丹波産黒豆の天ぷら 丹波の黒大豆の枝豆「紫ずきん」を「松流」に調理した。秋の京野菜で、薄皮が紫がかっている。また通常の枝豆より大粒で甘みが多い。これに小エビとたこを絡めて、さっと衣で揚げた。松のてんぷらは極薄の衣が特徴で、素材そのものの味を壊さぬよう控えめ。濃い味が好みの人は物足りないかもしれないが、そこは京会席の系譜。サクッと薄衣をかむと、じんわり豆の甘さが口の奥まで広がる。好みですだちを絞り、天然塩に付けていただくのもいい。
 パリパリの栗チップスと、香ばしく揚げた鱧(はも)の腹棒を添えた。鱧の身を開いたときに、骨切りを行うが、この腹棒は骨のない部分で、ポリポリかじれる。高級魚ハモらしからぬ食べ方、贅沢だ。
 知らずに日本酒に手が伸びる。取材日は彼岸前で暑さが残り、「ひやおろし」を飲みたくなった。「松」では青竹筒に入れられ冷酒が運ばれる。爽やかな香が印象的だが、料理袖には青い防風(ぼうふ)と赤い薬膳・クコの実が添えられ、見た目も美しい。細部に渡る心遣い。これが「松」の創作料理だ。

焼き鱧と焼き松茸のご飯

 焼き鱧と焼き松茸のご飯 蒸した餅米に、焼きたての鱧と松茸を添えた。セイロのまま出されたるが、フタを開けた瞬間は息を飲む。部屋が秋の香りに包まれる。採れ立ての松茸に大振りの銀杏(ぎんなん)と細切りの柚子が香を放つ。これが京都の秋の匂いだ。
 鱧と松茸、海山の両雄が絡むご飯は、日本人なら誰もが直感的に欲しくなる秋の味だ。活き鱧を醤油焼きして、後から添えたそうだが、染み出た松茸と鱧の深い旨みが餅米に絡みつく。玉乃光でほろ酔いの後、味も香も直線的に五感に押し寄せて来る。
 鱧の旬は梅雨から10月末までで、一方の松茸は秋からのため、2つの組み合わせが実現するのは、10月いっぱいだ。素材の旨みを生かすため、時期も限定されるが、まさに「一期一会」の逸品だろう。

地元で愛される店

 「素材を生かすオリジナルの味」にこだわって約40年。京都の人が通い詰め、地元で愛される店となった。店の雰囲気は祇園のように凜とした緊張感はなく、いい意味で敷居が低い。一重に主人を始め料理人の気さくさが織りなす空気なのだろうが、客としてもリラックスして料理を楽しめる。その空気感と裏腹に素材も技も器も一流で、このギャップに、東京が真似できない、京都の奥深さを思い知る。

 この夏、仏料理の有名シェフ、ピエール・ガニエールさんが雑誌の取材で立ち寄り、料理を絶賛した。「今までほとんど取材はお断りして来たんです。でも、(瀬戸内)寂聴さんに『作ってきたものを、世に残していくことも大切』と教えられ、少し出てみようかなと」。恥ずかしそうに掲載紙を広げて見せてくれた屈託ない主人の笑顔に、「料理=人間」という前提を思い返した。

名店紹介

天ぷら 松

天ぷら 松 天ぷらだけではない、創作懐石料理の店。素材やメニューのリクエストに応じるのはもちろん、個々客の味付けにも対応してくれる。常連が多いが一見さんも歓迎している。水曜定休だが、祝祭日は営業。ランチは5000円から。夜は7000円から。まずは電話で予約した方がベター。

◇京都市右京区梅津大縄場町21-26◇075・881・9190
◇午前11時30分~午後2時30分、午後4時30分~同9時

京散歩

松尾大社(まつのおたいしゃ)

松尾大社 平安以前に山城国一帯に居住した渡来人の秦氏が、氏神とした松尾山の神が起源。秦氏が酒造の技術も日本に伝えたことで、松尾神は酒造の神としても信仰されるようになった。近代社格制度のもと、官幣大社に列格し、戦後は別表神社となった。重森三玲作の庭園は近代日本庭園の代表格。

おすすめの酒

純米吟醸 玉乃光 伝承 山廃仕込み

純米吟醸 玉乃光 伝承 山廃仕込み 山廃は「秋上がり」といって、夏をまたぎ貯蔵する。仕込みは2月、火入れの後、そこから6カ月寝かす。自然界の乳酸菌を操りながら、味を調える。調整は経験が頼りだが、できあがりのタイミングを見定めるのが難しい。その後、「旨みが出てきて、まろやかな味に変わる。まるで角が取れて丸くなる感じ」。「山廃」は熟成してから飲むので、味わいが複雑になる。重厚なコクと切れ味のよさがのどに響く。この山廃を玉乃光伝承の純米吟醸酒として仕上げた。


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