韓国、韓国系ニュージーランド、中国。

 アジア系が独占した女子オリンピックの表彰台は、世界の女子ゴルフ界のパワーバランスを映し出していた。2016年のUSLPGAツアーでは24戦中のうちアジア出身選手が19勝を挙げている。

 優勝数ではリディア・コと韓国勢の争いをアリヤ・ジュタヌガンや野村敏京などのアジア選手とレクシー・トンプソンやブルック・ヘンダーソンなどの欧米選手が追いかけている状態だ。

 今回のオリンピック女子ゴルフ競技は現状のUSLPGAを反映し、最終日は世界ランク1位のリディア・コと韓国勢の世界ランク最上位で過去に世界ランク1位にも君臨していた朴仁妃の一騎打ちが予想された。リディア・コが3日目からの勢いで猛追するかと思われたが、朴仁妃が怪我から復帰したばかりとは思えない圧巻のゴルフで付け入る隙を与えず、新旧賞金女王対決は朴仁妃に軍配が上がった。


●世界で戦うことを見据えた環境作り


 116年ぶりのオリンピックで歴史に名を刻んだメダリストたち。特に金メダリストの朴仁妃と銀メダリストのリディア・コはLPGAの歴史を塗り替えてきた。

 朴仁妃はアジア人初のキャリアグランドスラムを達成し、27歳にして最年少LPGA殿堂入りを果たした。リディア・コも史上最年少の17歳9カ月でワールドランク1位を獲得し、2015年のエビアン選手権で18歳4ヶ月20日でLPGA最年少メジャー制覇するなどの歴史を作ってきた。

 そして朴仁妃はメジャー競技全制覇のキャリアグランドスラムに加え、オリンピックで金メダルを獲得によって「キャリアゴールデンスラム」を達成し、ゴルフ界初の偉業を成し遂げた。

 なぜアジア系の朴仁妃とリディア・コが欧米勢が主役だったゴルフ界において歴史を塗り替える活躍をすることができたのだろうか。

 その答えは両親や周囲のサポートによる環境整備にある。

 朴仁妃は母国のヒロイン・朴セリに憧れ、10歳からクラブを握り、12歳でゴルフ留学のため韓国からアメリカへ渡ると、数々のタイトルを手にし、アマチュアながらプロツアーにも出場した。アメリカでPGAトップ100インストラクターのジョー・ハレットなどに技術的なサポートを受けながらスイングの基礎を身に付けていった。

 リディア・コは5歳でゴルフを始め、初ラウンドは130。両親は彼女の才能を認め、6歳の時に韓国からゴルフ環境に恵まれたニュージーランドに移り住むことを決意したという。アマチュア時代は130週連続で世界ランク1位をキープし、全米アマチュア選手権での優勝、2012年のALPGツアー「NSW女子オープン」で史上最年少の14歳10か月で優勝を果たし、2012年LPGAツアー「カナディアン女子オープン」でも史上最年少優勝を果たし、翌年連覇。2013年のプロ転向後USLPGA参戦をきっかけにアメリカへ渡る。

 幼いころから世界で戦うことを念頭に置いて両親や周囲は、一見無謀とも思える環境変化を行ってきた。そして、リディア・コの場合は環境を変えるだけでなく、今まで輝かしいアマチュアの戦績を築いてきたスイングを捨て、世界一を目指すスイングを構築するためにアーニー・エルスなど多くのメジャーチャンピオンを育て上げた名伯楽、デビッド・レッドベターの指導を受け、世界ナンバーワンプレーヤーとなった。

 世界を変え、歴史を変える選手は自己変革を恐れない。世界のトップを目指すために最高の環境、最高の指導者を選択する。そこには無謀さと紙一重のチャレンジを平気で行うことができる、リスクを恐れない勝者のメンタリティーが存在する。

 リディア・コとデビッド・レッドベターはまだまだ現状のスイングとキャリアに満足していないはずだ。

 今から2020年の東京オリンピックの金メダルを目標に取り組んでいくことだろう。


●メダリストに共通するアップライトなバックスイング


 朴仁妃とリディア・コのスイングに共通するのは左腕が地面と平行の時にシャフトが垂直に立ったアップライトな軌道のバックスイングだ。リディア・コを指導するデビッド・レッドベターは自身が提唱するAスイング理論のアップライトなバックスイングについてこう説明する。

「Aスイングのバックスイングはオーソドックスとされるバックスイングより20~25%クラブ、腕の移動距離が短い。」

 アップライトな軌道のバックスイングを行うことで体と腕の同調性を保つことが可能となり、再現性、安定性が増す。この無駄のないバックスイングがクラブの朴仁妃とリディア・コのショットの正確性に貢献をしている。

 ちなみに銅メダリストのフォン・シャンシャンもレッドベターアカデミーでヘッドプロを務めたゲーリー・ギルクリストに指導を受けているため、従来のレッドベター理論の早めのコッキングによるアップライトな軌道のバックスイングを採用している。


●アップライトなバックスイングを身に付ける練習方法


 アマチュアは手首がうまく使えなかったり、腕の運動量が多くなることでバックスイングのクラブの角度がフラットになり、体と腕の関係性が崩れる場合が多い。体と腕の同調が崩れることで腕を振り戻すタイミングによって右にも左にもボールが散らばるという状況に陥る。アップライトなバックスイングを身に付けるための練習方法として両手の間隔を離して握る「スプリットハンド」をお薦めする。バックスイングで右手を支点とし、左手でグリップエンドを押す「てこの原理」でクラブヘッドを上げていくことで、アップライトな軌道でクラブが上がりやすくなる。

 フラットなバックスイングをしていた人は最初は手先で上げている感じになるかもしれないが、今までよりもクラブが軽く感じられ、ヘッドの運動量が増えるので楽に振ることができるだろう。


 2020年、東京オリンピックでもゴルフ競技が行われる。

 オリンピックでは競技方法など検討要素が山積みだが、次回はワールドクラスの選手が勢揃いすることで競技が盛り上がり、ゴルフの楽しさ、素晴らしさが広がることを期待したい。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)