日本のゴルフファンにとって松山英樹の連覇が楽しみの一つだった今年のマスターズ。今シーズンに入って勢いに乗るスコッティ・シェフラーが通算10アンダーでメジャー初制覇を果たし、松山からグリーンジャケットを受け取った。

■ジュニア時代からエリート街道

シェフラーはテキサス州ダラスで育ち、ハイランドパーク高校時代に「全米ジュニア」、テキサス大学時代には「全米オープン」ローアマチュアを獲得するなどエリート街道を進み、プロ転向の翌年の2019年に米下部ツアーで2勝を挙げ最優秀選手に輝いた。PGAツアーに昇格してから3年目を迎える今シーズンは既に3勝を挙げていて、世界ランキングも1位。実力通りの力を発揮し、念願のメジャータイトルを手にした。

今大会は他の選手がスコアを伸ばせない中、2日目に単独トップに躍り出て以降首位を守り切った。2日目の後半から優勝を意識したようで、3日目、4日目ともに緊張からか不安定なプレーも見られたが、傷口を広げることなく耐えて逃げきった。

マスターズを制し、声援に応えるシェフラー(AP)
マスターズを制し、声援に応えるシェフラー(AP)

今回のメジャー初制覇はシェフラーにとって大きな自信を与えることだろう。メジャーの優勝争いを乗り切ったことで、これからはメジャーの舞台で落ち着いてプレーできるようになるはずだ。今年はこの勢いに乗り、複数のメジャータイトルを手中に収めるかもしれない。

■スイングは地面反力を効果的に

シェフラーは190センチ、91キロという恵まれた体格で手足も長い。いかにも飛ばしそうな体つきで、実際に平均飛距離は308ヤードで24位。スイングはトップの位置が高く、フェースが開き気味なのが特徴だ。現在、主流になりつつあるフェース面を閉じたスイングに比べると腕の運動量が多いが、フェースローテーションは少ないため安定感のあるスイングといえるだろう。飛距離が出る要因は、体格に加えて、地面反力を効果的に使っていることも大きい。ダウンスイングで左足を踏み込んだ後、スムーズに抜重しながら左足が浮きながらつま先が目標方向に向いている。この動きはバッバ・ワトソンやブライソン・デシャンボーなど飛ばし屋のスイングに見られる動きで、地面反力を効果的に利用していることで自然に起きる。更にフォロースルーでグレッグ・ノーマンのように右足を後ろに引くような動きが入るが、これはダウンスイングで体が目標方向へスライドする動きを抑制する効果がある。

■キャディーは2度優勝経験

シェフラーのコーチはPGA・オブ・アメリカの殿堂入りも果たしているベテランのランディ・スミスだ。シェフラーは7歳の頃からスミスの指導を受け、スイングを基礎から学んできたという。

スミスはシェフラーについて「ゲームのバランスがいい。ドライブがとてもうまく、アイアンプレーも非常に安定している。ショートゲームは非常に創造的で、パターを得意している」とインタビューに答えたことがある。

確かにスタッツを見ても、ストロークス・ゲインド・アプローチ・ザ・グリーンは29位、ストロークス・ゲインド・パッティングが15位、と、ショットとパッティングが噛み合った、バランスの取れた選手であることが分かる。ピンチをアプローチでしのぐシーンも多く見られ、すべての分野において穴がない選手と言えるだろう。

そして、スミスは今回の優勝のポイントとして、3日目の18番ホールを挙げている。このホールで、シェフラーはティーショットを左の林に打ち込みアンプレヤブルとなった。さらに、3打目もグリーンをオーバー。しかし、パターで打った4打目を1メートル以内に寄せてボギーでしのいだ。

「最高のボギーだった。そのプレーはミスショットをした状況の中でも、彼が余裕をもっていたことを示していた」とメンタル面の強さを評価した。

マスターズを制したシェフラー(右)とキャディーのスコットさん(ロイター)
マスターズを制したシェフラー(右)とキャディーのスコットさん(ロイター)

このとき、動揺しかけたシェフラーを支えたのは、キャディのテッド・スコットだという。

スコットは昨年まで15年間、バッバ・ワトソンのキャディを務め、2度のマスターズの優勝にも立ち会っている。オーガスタを熟知するキャディの存在はシェフラーにとって心強かったに違いない。

まだ25歳という若さと恵まれた体格、バランスの良いゴルフに加え、メンタルを支えるキャディを得て、シェフラーの勢いはしばらく続くのではないだろうか。


■4日間プレーしたタイガーに驚き

マスターズのプレーを終え、観客の拍手に応えるウッズ(ロイター)
マスターズのプレーを終え、観客の拍手に応えるウッズ(ロイター)

もう一つのマスターズの話題といえば、タイガー・ウッズの出場だった。昨年2月の交通事故直後は、粉砕骨折した右足を切断する可能性もあったというが、驚異的な回復力で再び歩けるようになったばかりか、試合に出られるようにまでなった。これは驚きを禁じ得ない。

しかも、初日は1アンダーで10位タイ。2019年に優勝したときは2アンダーで11位タイだったから、ほとんど遜色がない。さすがに2日目以降は足の痛みや疲労からか、スコアを伸ばせず、通算13オーバー47位で終わったが、予選を通過し4日間プレーし続けた。

オーガスタ・ナショナルGCはテレビで見ていると分かりづらいが、かなり起伏が激しい。8番ホールの300ヤードほど続く上り坂は、上り切った時には一休みしたくなるほどの傾斜だし、10番ホールのティーイングエリアからの景色はスキー場の下り傾斜のようだ。2度オーガスタ・ナショナルGCを訪れたが、普段のトーナメント取材より下半身に大きな負担がかかった記憶がある。そんなコースを4日間、回り切ったのだからウッズにとって復活に向けて大きな自信になったはずだ。

10番ホールはかなりの下り傾斜(2017年観戦時撮影)
10番ホールはかなりの下り傾斜(2017年観戦時撮影)

次にタイガーは7月の全英オープンへの出場を目指し、5月の全米プロ選手権と6月の全米オープンは体調などを見て判断するという。全英オープンが開かれるセントアンドリュースはフラットなコースなので、オーガスタよりはかなり体への負担も軽減されるだろう。

■飛距離に事故の影響なし

復活を果たしたタイガーのスイングだが、自動車事故前とほとんど変わらず、飛距離にも大きな影響はなかった。タイガーの場合、右足よりも左足を積極的に使うタイプなので、骨折したのが右足だったのが不幸中の幸いだったといえるかもしれない。このままリハビリで体力を戻し、痛みで集中力を欠くようなことがなくなれば、メジャーでの復活優勝も夢ではないはずだ。

現在のワールドランキングトップ5はすべて20代の選手となっており、今後のPGAツアーはより一層若手選手の躍進が目立つことだろう。その勢いのある若手選手の筆頭としてシェフラーがPGAツアーを引っ張っていく流れになりそうだ。

(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)