11日まで韓国・仁川で開催されていたプレジデンツ・カップを取材してきた。2大会連続2度目の出場となった松山英樹(23=LEXUS)は4日間で2勝1敗1分け。初出場だった13年大会は1勝3敗1分けだった。数字的にも米ツアーでもまれた成長を示した形となった。

 2勝はベ・サンムン(29=韓国)と組んだ第3日の「フォアボール」と最終日のシングルス・マッチプレー。敗れたのはアダム・スコット(35=オーストラリア)とのペアで臨んだ第1日の「フォアサム」、引き分けがベ・サンムンとのペアだった第2日の「フォアサム」だった。2人のうちスコアが良い方を採用する「フォアボール」方式に対し、「フォアサム」とは1つのボールを交互に打つ方式だ。

 「フォアサム」ではホールごとに違うボールを使用できる。もともと松山はダンロップ、スコットはタイトリスト、ベ・サンムンはキャロウェイとそれぞれ使用するボールのメーカーが違う。会場のジャック・ニクラウスGCはフェアウエーが広く、ティーショットのプレッシャーが少ないため、より精度が求められる2打目を担当する選手の使用球に合わせてホールごとに使い分けていたようだ。

 直径約4・3センチ。小さなボールが競技に占めるウエートの大きさとはどれほどなのか。松山専属の進藤大典キャディー(35)は一般論として「ボールの違いは、車におけるタイヤの違いみたいなもの」と例えてくれた。影響は見た目以上に大きいということだ。特に第1日の松山ペアはそろってパッティングの不調に泣いた。グリーン上でわずかな感覚のズレが生じていた可能性もある。

 結果的にではあるが、松山はなじみのあるダンロップのボールを打ち続けた2試合でいずれも勝利を収めた。この大会、世界選抜は1ポイント差で98年大会以来の優勝を逃している。第2日の「フォアボール」のメンバーに松山が選ばれていたら、どうだったか。意味のない「タラレバ」と分かっていても、考えてしまった。

 ボールを巡っては、こんなこともあった。「フォアボール」で実施された第2日の第8試合。米国選抜のザック・ジョンソン(39)、フィル・ミケルソン(45)ペアと世界選抜のスコット、ジェーソン・デー(27=オーストラリア)ペアが引き分けた一戦だった。6番まででオールスクエアだったスコアが、7番パー5を終えると米国選抜の2ダウンに変わっていた。珍しいケースだ。原因はミケルソンが犯したルール違反だったという。2オンを狙うために、7番でより硬いボールに替えてプレーしていた。

 競技規則の「付属規則I 1c ワンボール条件」には、以下のように記されている。

 「正規のラウンド中、プレーヤーが使用する球は最新の公認球リストに1種類の球として掲載されている同じブランド、同じモデルの球でなければならない」。さらにマッチプレーにおける、この違反に対する罰として「違反が発見されたホールを終えた時点でのマッチの状態を、違反があった各ホールについて1ホールずつ差し引いて調整しなければならない。ただし、調整は1ラウンドにつき最高2ホールまで」。

 OBや池に入れてボールをなくした場合も、同じモデルのボールでプレーを再開しなければならない。マッチプレーの場合、違反すれば1ダウンになるということだ。

 ミケルソンも、この「ワンボール・ルール」は把握していた。それは第1打を打った後、ボールを替えたことを自ら競技委員に報告したことからも分かる。ならば、なぜ替えたのか。実は米国と欧州の対抗戦「ライダーカップ」や全米プロ選手権といった米PGAが管轄する大会では、全ホールで違うボールを使うことができるのだという。プレジデンツ・カップも同様と思い込んで打ったものの、途中で不安になって確認したところ、ルール違反が発覚したということだった。

 ルールでは、ミケルソンは正しいボールに取り換えた上でプレーを続けることができた。しかし、同行していたレフェリーの勘違いでボールを拾い、7番でのプレーをやめてしまった。このホールで米国選抜は、まずミケルソンのルール違反による1ダウン。さらに世界選抜のデーがバーディーを奪ったのに対し、米国選抜はミケルソンがプレーをやめ、Z・ジョンソンがパーにとどまったため、合計で2ダウンとなっていた。仮にミケルソンがプレーを続けてイーグルを決めていたら、違反はスコア上“帳消し”になっていた。世界選抜が勝利していたら、物議を醸していただろう。

 最終日のラストマッチまでもつれた大接戦を演出したのは「ボール」だったのかもしれない。【亀山泰宏】