ちょっと古い話やが、今年の6月16日、岡本綾子さんである。

 「私、USGA(全米ゴルフ協会)のセッティングって好きなのよね。いつも『へーっ』てことをやってくる。発想がね、おもしろいからさ」

 米ノースカロライナ州にあるパインハースト&リゾートのナンバー2コースで、テレビ朝日の中継用の現地取材に来てはった時に、そんな話をしました。

 今年の全米女子オープンは、興味深かった。男子の全米オープンの翌週に同じコースでの開催。当然、男子の時よりティーを前に出して、グリーンのコンパクション(硬さ)も柔らかくしてたけど、コンセプトは一緒やった。全米オープンの代名詞的な「深いラフ」がなく、代わりに砂地に雑草が生えた「ウェストエリア」が広がる。ただ、フェアウエーの幅が30~40ヤード、場所によっては50ヤード近くもあったんで、それほどプレッシャーはない。やっかいなんは、むしろグリーン周りやった。

 多くが砲台タイプで、特に周囲をラフやなく、逆につんつるてんに刈り込んである。まるでカラーの延長みたいに。要はグリーンを外したら、ボールは全部下まで転がり落ちてしまうっちゅう寸法です。

 最近の米男子ツアーで主流になってきたスタイルやけど、日本の女子ツアーのコースではありえへんセッティングやから、みんな、アプローチに困ってた。

 日本選手からは「どうやって処置すればいいか、わからない」という声が多く聞かれた末「私はウエッジで」「パターの転がしで」「ウッドかユーティリティーで」と、各自が練習ラウンドから頭を悩ませ、攻略に取り組んでた。そんなトーナメントの結果は…アンダーパーは優勝のミシェル・ウィーだけ。スコアは通算2アンダーやった。

 さて、時も場所も変わって、先々週の日本女子オープン。滋賀・琵琶湖CC栗東/三上Cは、パインハーストと“似て非なるセッティング”やった。

 ラフは例年ほど深くない。それでいて、フェアウエー幅はかなり広い。そこらは確かに似てるけど、ラフに入れてもグリーン方向は狙える程度の深さやから、みんな、平気でドライバーを使っとった。砲台タイプが多いグリーン形状や、周りに深いラフがない点は似てた。場所によっては、しっかり刈り込んであった点も似てた。全米女子オープンのセッティングを意識してたんは間違いない。ところが、選手は全然困ってなかった。聞こえてきた声は「何か、日本女子オープンらしくない」「優勝は10アンダーぐらいいくと思う」-。果たして優勝はテレサ・ルーで、通算8アンダー。アンダーパーを出した選手が、実に15人もおった。例年、イーブンパーを巡る攻防が定番(のはず)の国内最高峰競技らしからぬ、平凡な結末やった。

 主管の日本ゴルフ協会(JGA)の競技責任者は開幕前日、今回のコース設定について説明してくれた。

 「ラフの深さ、フェアウエーの幅はいつもとそう変わんないですよ」

 う~ん…。しかし、今年の全米女子オープンを意識してましたよね?

 「そうですね。セッティングに関しては、柔軟にいろいろ試していきたいと思っています」

 なるほど、JGAがやろうとしていること、方向性はわかった。五輪のこともあって“世界基準”を意識してるんも、理解できた。でも、今回は、中途半端やったんやないかな。例えば、グリーン周りの刈り込みとか、徹底的につんつるてんにしてもうても良かったんちゃうんかな。

 USGAのマネもええと思う。でも、やるなら、もっ大胆に、自信をもってやった方がええんとちゃうやろか? 来年は、JGAの信念を感じるようなセッティングが見たいなあ。【加藤裕一】