<男子ゴルフ:トーシントーナメント>◇最終日◇9日◇三重・涼仙GC(7169ヤード、パー72)◇賞金総額8000万円(54ホール競技のため75%加算)◇優勝1600万円

 男子ゴルフのプロトーナメントで前代未聞のプレーオフが行われた。呉阿順(27=中国)と池田勇太(26)が通算18アンダー198で並びプレーオフに。ところが雷雨による中断の影響で競技進行が遅れ、日没間近となったため、コースを投光器などで照らして実施。それでも次第に周囲が暗くなり、2ホール目から距離を徐々に縮め、日没直後の4ホール目に決着がつき、呉がツアー初優勝を決めた。距離短縮によるプレーオフは73年(昭48)のツアー制施行以来初めて。

 暗くなった18番グリーンの芝が、うっすらと浮き上がった。投光器2基、カート5台分のライト、そして来賓席にあったライトまでも持ち出して照らしたプレーオフ4ホール目。呉と池田はカップまで45ヤードのティー位置から球を打った。先に2オン1パットで池田が終えた後、呉が1オン1パットで締めくくり、初Vを決めた。競技終了は午後6時20分。日没と、ほぼ同時刻に“前代未聞”のプレーオフが幕を閉じた。

 雷雨のため、午前中に2時間12分の中断があった。競技終了が午後5時40分以降になることは確実だったが、さらに通算18アンダーで並んだ呉と池田によるプレーオフ突入が決まった。今大会が男子ツアー初開催となる涼仙GCにとって「暗闇のゴルフ」は想定外だった。ツアー運営サイドは「まさかプレーオフになるとは。照明などの準備はしていなかった」と明かした。

 今大会のプレーオフは18番で繰り返すルールだった。1H目は何とか574ヤードで行われたが、ともにパー。しかし2H目の時点でティーグラウンドは薄暗くなった。そこで日本ゴルフツアー機構(JGTO)は苦渋の決断。JGTO中島和也ツアーディレクターは「ツアーディレクターの判断にゆだねる」という規定に沿ってツアー施行後、初めてティー位置をグリーン近くに移動する変則方法を導入した。グリーンフロントエッジから145ヤード地点のフェアウエーに急きょ即席ティーを設置してスタート。会場にあった2基の投光器、カート5台のライトも投入された。

 グリーン横に設置されたスコア表示用の電光掲示板も「明るくなれば」とすべて白にしたが、2H目も決着がつかなかった。3H目はグリーンフロントエッジから100ヤードに変更したが、呉と池田が長いパットを沈めて引き分け。4H目はついにカップまで45ヤードで開始。別の場所にあった照明も持ち出し、グリーン横に置いて照らすと、今度は光と影ができ、ラインが読みづらくなってしまった。

 池田は「見えづらい」と照明の移動を申し出た。だが2人の平等性が保たれないため、申し出は認められなかった。結局、アプローチを決められずに10勝目を逃した池田は「見えません。言い訳したくないけど無理だね。見えないのは相手も一緒だけど決めるものも決めきれなかったし…流れがなかった」とガックリ。初Vを決めた呉も「距離の短縮ははじめて」と驚きを隠せなかった。もし4H目でも決着がつかなかった場合はグリーンでのパター勝負になっていた可能性もあった。

 中島氏は「優勝決定のため。ティー(移動)は現実的にやらざるを得なかった」と説明。最後はアプローチ合戦となった超変則プレーオフに、暗闇に残っていた多くのギャラリーも最後までざわついていた。【藤中栄二】

 ◆ゴルフのコース距離計算

 ティーグラウンドからの距離(ヤード)はティーグラウンドからグリーンフロントエッジまで、ティーグラウンドからカップまでと会場によって計算方法は異なる。慣例では100ヤード前後を目安に距離を表し、パー3のショートコースではカップまで、パー4以上はグリーンエッジまでで計算するケースが多い。今回のプレーオフも、慣例によって100ヤード前後を目安に計算される形となった。