<男子ゴルフ:三井住友VISA太平洋マスターズ>◇最終日◇17日◇静岡・太平洋C御殿場(7246ヤード、パー72)

 谷原秀人(35=フリー)が復活優勝を遂げた。1バーディー、2ボギーの73にまとめ、通算13アンダー275で、10年8月以来のツアー10勝目。右肩痛で選手生命の危機にひんし、回復後も本来のショットが取り戻せずに苦しんできた。しかしその間に磨いたパット、アプローチがものをいい、強風吹き荒れる中で首位を守り抜いた。

 苦しみながら、粘り強く逃げ切った。富士の裾野の風に翻弄(ほんろう)され、谷原のショットはピンに絡まなかった。後半はパーオンしても、カップまで10メートル前後を残した。しかしジャストタッチで寄せ切り、スコアを落とす周囲を横目に、しぶとくパーセーブ。18番も5メートルのバーディーパットを10センチに寄せ、優勝を決めた。

 「長い1日でした。最終日のようなゴルフじゃ実感が湧かないけど、久々に勝てて本当に良かった」。支えになったパットの精度は、完全復活の副産物だ。10年のVanaH杯KBCオーガスタで優勝した直後から、右肩痛に悩んだ。検査しても原因が分からない。ついにスイングもできないくらいに悪化した。

 引退すら覚悟した。たまたま紹介された名医から「原因は肩自体ではなく、肋骨(ろっこつ)の動きが少ないため」と診断され、復帰への糸口をつかんだが、ショットの精度、飛距離は落ちていた。「でもそのことで、パットが磨かれました」。12年は平均パット数1位で、今年もここまで1位。日本一のパット技術が、この試合でもものをいった。

 寒さも克服した。冬場になると足の血行不良で、肉離れのような痛みが走っていた。「この時期は勝てない」と半ば諦めていたが、秀島トレーナーが「足の血行さえ良くなれば」と打開策を準備。足の血行を促す「第2の心臓」ふくらはぎの筋力強化と、スタート前に徹底して行う足の温熱療法で、極寒の御殿場を痛みなく戦い抜いた。

 ある時自宅で引退の時期を口にすると、絢香夫人(32)からは「私は3回優勝を見ているけど(長男の)悠人はまだ。トロフィーと悠人を抱いた写真を撮るまで、引退なんて許さない」と活を入れられた。夫人は「次は『悠人はまだ2歳でちゃんと覚えてないから、また勝つまで引退なんて許さない』と言います」と笑う。

 谷原本人も「この勝利を自信にして、また年に2勝、3勝とできるようになりたい」とうなずく。家族にも支えられ、第2の黄金時代到来を目指す。【塩畑大輔】