昨年5月に「オープナー」を生み出して快進撃を続け話題を集めたレイズが、今季は開幕から安定した強さをみせている。

ここまでチーム打率はリーグ2位タイ、防御率は同1位を誇り、現在ア・リーグ最高勝率。この圧倒的に強いチームが、総年俸ではメジャー最下位というのがレイズの面白いところで、今季開幕時でメジャー30球団中30位の5350万799ドル(約58億9000万円)。トップのカブスやヤンキースと比べるとわずか1/4程度であり、まさに驚異的なコスパの良さだ。

これだけ資金を使わずに勝っているのは、徹底した「ニッチ」の追及にあると思う。パワー系のリリーフ投手を試合の頭に投げさせるオープナー戦法というのがそもそも、先発投手の頭数がそろわないため苦肉の策として始めたニッチ思考の産物だ。

レイズが最近行っているニッチ戦略には他に、打撃練習改革がある。メジャーでは試合前の打撃練習というのはコーチが打撃投手を務めるのが普通で、選手は打ちやすいコースに投げらた球をリズムよく打っていくという形式。メジャーの球団は昔からどこもこのスタイルなので、一種の伝統といえるやり方だ。しかしレイズは「この練習って、無駄なのでは?」という発想から、マシンを使い、試合で投手が実際に投げるのと同程度の球速を練習で打つように変えたという。

名門プリンストン大学で数学を学び野球経験がほとんどないジョナサン・アーリックマン氏(29)を今季、レイズでプロセス&分析担当コーチという新設のポジションに就任させたこともそうだ。データ分析専門家にユニホームを着せ、コーチとしてベンチ入りさせたのだ。現在のメジャー球団はどこも、データ分析専門スタッフを多数抱えており、クラブハウスに出入りさせることなどは当たり前になっているが、ベンチ入りさせることを思いつくというのはさすがレイズである。他球団がまだどこもやらない部分に目をつけるという点にかけては、抜群の発想力だ。

ちなみに筆者が一番好きなレイズのニッチエピソードは、数年前にスチュワート・スターンバーグ球団オーナーを取材したときのことだ。米国人記者に混じって試合前のグラウンドで囲み取材をしたとき、終わってすぐに「その靴、かわいいね」と声を掛けられた。筆者はそのとき野球ボールデザインのスニーカーを履いていたのだが、大勢いる中で後ろの方にいた、ほとんど接点も何もない日本人記者の足元を、隙間から目ざとく見つけて声まで掛けてくるなど、他球団のオーナーでは恐らくあり得ない。フィールドで記者の囲み取材に応じること自体も、オーナーとしてはかなり珍しい。実にレイズらしいオーナーともいえるし、このオーナーだからこそのレイズなのかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

本塁打を放ったブランドン・ロウ(左)(AP)
本塁打を放ったブランドン・ロウ(左)(AP)