今季開幕前、メジャーではハイテク機器によるサイン盗みを防止するため外野に高性能カメラを設置するなどの行為が禁止になったはずだが、それもあまり効果がないのか、相手のサインや投手の癖を盗む技術はさらに高度化しているように見える。

ヤンキース田中将大投手(30)が、7月25日の敵地でのレッドソックス戦で自己ワーストの12安打12失点を喫したときも、何か盗まれているのではないかという指摘が出ていた。

ラリー・ロスチャイルド投手コーチもこの登板の数日後にニューヨーク・ポスト紙に「明らかに投球の癖を盗まれるか何かされている。その何かを、我々はまだ解明できていない。今後、突きとめなければならないと思っている」と話していた。

レッドソックスが実際に何かをしていたのかどうかは現在も不明だが、面白いことに、そのレッドソックスが他球団からサインを盗まれることに関しては非常にナーバスになっており、対策として複雑なサインシステムを作り、使用しているそうだ。敵の走者が二塁に出塁したときにサインが盗まれることを想定し、そのシステムに従って頻繁にバッテリー間のサインを変えるのだが、あまりに複雑なため覚えきれない。そこで投手は、帽子の内側にサインシステムの早見表、つまり「カンペ」を貼るようになったという。

今季、レッドソックスの投手が投球間に帽子を外し内側を見るという行動を繰り返しているため、ファンの間で「一体何をやっているのか」と話題になっていた。そこで地元スポーツラジオ局の記者がダナ・レバンジー投手コーチに聞いたところ「サインシステムが何重にも複雑に組まれている。相手を出し抜くため、それを頻繁に変えている」と明かした。

サインの複雑化は開幕当初から行っていたが、バッテリー間のサイン違いが頻発するという問題が出たため、後半戦からリリーフ陣に早見表を使わせるようになり、間もなく先発投手も使うようになった。レッドソックスは昨季、チームの総暴投数が51だったが、今季はシーズン1/3弱を残した時点ですでに58にもなっており、複雑なサインシステムによって引き起こされるサイン違いの暴投も、これで減らせると見込んでいる。

メジャーでは手首にサイン表のカードを装着する捕手が増え、野手は守備シフト表のカードを見ながら位置取りをすることがすでに目につくようになっていたが、今後は投手の「帽子内カンペ」も増えるのかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)