WBC世界バンタム級5位の井上拓真(23=大橋)が、同級2位タサーナ・サラパット(25=タイ)に3-0判定で勝った。

試合後「最高です。みなさんの声援のおかげで最後まで踏ん張ることができました」と喜んだ。初の世界戦、1回から積極的に前に出て打ち合った。「1回でインパクトある試合を狙いすぎてズルズルいってしまった」。序盤の勢いが最後まで続かなかったが、ポイントは相手を上回り続けた。

井上拓にとって、悲願の世界タイトルだった。2年前の16年11月、1度は世界初挑戦の発表会見が開かれた。WBO世界バンタム級王者マーロン・タパレス(フィリピン)への挑戦。会見当日夜に早速、タパレスと同じサウスポーの練習パートナーとスパーリングに臨んだ際、右拳に激痛が走った。手の甲と手首をつなぐ関節を脱臼し、その後に手術を受けた。世界戦中止という憂き目を見た。

「悔しい思いもあり、すごくへこみました。ただ今思えば、この2年間はすごくいい経験をした」

復帰戦は17年8月。世界挑戦経験があり、その後に日本スーパーフライ級王者に就いた久高寛之(仲里)に10回判定勝ちを収めて再起を飾ると、同12月には元日本バンタム級王者益田健太郎(新日本木村)に10回判定勝ち。今年9月には東洋太平洋王者だったマーク・ジョン・ヤップ(六島)とのWBC指名挑戦者決定戦も制した。「ベテラン選手と対戦して結果を出した。2年前よりも(世界王座を)取れる自信がある」。井上拓が右拳を痛める直前までスパーリング相手を務めていた元IBF世界スーパーバンタム級王者岩佐は11月に2年ぶりに再び練習パートナーを務め「前よりパワーアップしている。特に体幹が強くなっている」と成長ぶりに目を見張ったほど。自他ともに納得した調整、減量で準備を整え、初世界挑戦に臨んでいた。

3階級制覇王者で現WBA世界バンタム級王者の兄尚弥(25)の背中を常に追ってきた。「ボクシングを始めてから意識している存在。ずっと追いかけている感じ」。2歳違いの兄弟。比較されることも多かったが「それはしようがない。多分、ナオ(尚弥)がいなかったらボクシングをやっていないし。途中でナオが辞めていたら、自分も続けていたかどうか…」と大きな刺激を受けてきた。先陣を切って走り続ける兄は優しく「友達のようです」と明かす。嫉妬は1度も感じたことがないという。「とにかく追いつきたい気持ちが一番です」。優しく見守ってくれる兄に続く世界王座獲得に集中していた。

兄と同様に世界王者に育てるために指導を続けてくれた父真吾氏への恩返しもしたかった。「父もナオだけでなく、自分も王者にすると言ってくれていた。小さい頃からみんなでやってきた目標。しっかり結果を出したいと思っていると思う」。母美穂さんからは食事と体調の管理、姉晴香さんは予備検診、記者会見、計量などを撮影するカメラマンとしてサポートしてくれた。「家族の夢をかなえたい」。亀田3兄弟以来となる国内2例目の兄弟世界王者への気持ちを強くしながら、年末の大舞台に立っていた。

「こんな内容じゃナオに並んだとは言えない。これから並べるように精進していきたいです。まだまだ暫定。正規のチャンピオンじゃないので喜んでいられない」と井上は次をにらんだ。