長崎県を訪れれば、まず平和公園へ行く。爆心地が公園となり、巨大な「長崎平和祈念像」が建立された。作者は文化勲章を受章した島原市出身の北村西望。美しい肉体の青年像に圧倒されつつ、私たちは手を合わせる。

そのモデルになったのは、徳島県出身で日体大OBの吉田廣一氏。1954年マニラ(フィリピン)で開催された第2回アジア大会の日本選手団の旗手を務めた重量挙げ選手、元陸軍大尉であられた。氏は永年、徳島県立穴吹高校の体育教員として、9人の五輪選手を輩出させたが、レスリングと水泳選手だった。本人は重量挙げのライトヘビー級で6度も全日本選手権で優勝したが、柔道6段。1つの競技にこだわらない指導者として名をはせる。

一流の彫刻家が吉田氏の身体に魅力を覚えたのは、ヘラクレス像なみの神々しさを漂わせていたからであろう。おそらく、世界中から平和公園に異文化をもつ人々がやってくる、その外国の人たちにも共感を得る像をつくる必要があった。仏教的でもキリスト教的でもなく、宗教色を感じさせない芸術作品が求められた。平和を祈るイメージとともにだ。

日体大には、北村西望の3作品がある。「母子像」は、マリア像を想起させ、「夢」は純真無垢(むく)をうたう少女像。大作「密林の王者」は、獲物を狙わんとするライオン像である。迫力とライオンの筋肉描写に驚かされる。

ライオン像は、国際自動車株式会社から創立125周年記念に寄贈していただいた。日体大のマスコットがライオン、学生たちに愛されている。で、パワースポットともなっている。今春、島原市のOBから「希望」と揮毫(きごう)された西望の大きな書が寄付された。OBの教え子に医師をされている西望の孫娘がいて、日体大に贈って欲しいとの話であった。

縁とは不思議。1人の高名な芸術家と関係をもつようになるなんて考えもしなかった。スポーツは、美の追求であることから、美術館に負けないように作品の収集をしている。