また、がん患者になってしまった。二度あることは三度ある。もうないだろうと安心していたのに、4度目のがんを宣告された。死亡者数1位が、がん。これを4回も経験すると、「死」について考えるのもベテランになる。

毎朝、目をさますと「今日も生きている」と喜ぶ。最初のがんは、前立腺がんだった。このがんの治癒率は95%、がん入門患者にはやさしい病気。「手術しますか、放射線治療にしますか、それともホルモン注射治療にしますか」と医師がいう。「一番楽な治療は何ですか」と問うと、「ホルモン注射ですが、男性としての機能がなくなります」。

古希の祝いを数年前に終えているので、もう男性でなくなってもいいと覚悟した。このがんはラクチン、半年に1度注射するだけだ。ところが、おっとどっこい、「リンパ節の腫れ方が異常です。入院して下さい」。腰骨の中のリンパ節ゆえ、ヘソから下を切って一部を切除、病理検査終了後、「悪性リンパ腫です。血液内科に移っていただきます」。

うれしいことに転移しておらず、Rチョップ療法という治療を3回も入院して受ける。髪の毛が、スポッと見事に落下する。自慢のチョンマゲはなくなり医療用カツラを買う。保険がきくのに驚いたが、毛がないと寒い。入院中、「徹底的に調べましょう」と親切な医師。超音波やCT検査後、「膵臓(すいぞう)がんです」と冷たい声。さすがの私もうろたえるしかなかった。

胃の後ろにある沈黙の臓器、がんの横綱だ。手術を成功させても5年間生きのびるパーセンテージは低い。幸い、ステージは1だという。糖尿病患者ゆえ、膵臓がんになりやすいらしい。手術を受ける。9時間、気がついたら病室のベッドだった。1度も痛さを感じずに退院できたのは、医師の実力の高さであったと思う。

そして4度目のがん発見。「大腸がんです」。もう驚かず、入院のスケジュールを確かめる。私にとってがんは友だち。恐れず医師を信じて天命を待つ心境だ。負けるもんか。