安倍晋三首相と年1、2回サシで会って意見してきたジャーナリスト田原総一朗さん(86)は突然の辞意表明をどう聞いたのか。

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体が相当悪い中、辞めることはやむを得ないと思っている。しかし、やらなければいけなかったことを残して辞めるのは不満だ。コロナ問題は特措法を改正すべきだ。国と自治体がバラバラ、国に責務がない。改正すべきなのに、厚労省や厚生族が反対でできなかった。最後に「やれ」と言って欲しかったね。

昨年、会ったとき、日米地位協定を改定すべきだと言った。国土の0・6%の沖縄に70%の米軍基地がある。ドイツやイタリアも改定しているのに、日本だけが不平等のままだ。オバマ前大統領は「世界の警察官をやめる」と言った。「何で海兵隊が普天間にいなければいけないのか。ハワイでいいじゃないか」と言ったよ。安倍さんは「やります」と言ったんだ。トランプと話をして欲しかったね。改定できれば、レガシーとなっただろうにね。

野党が弱すぎて、6回あった国政選挙をすべて勝った。自民党内からも安倍礼賛の声が上がり、1強となった。それが緊張感のない政治を生んだね。森友・加計問題だって、桜を見る会だって、かつての自民党だったら「ノー」と言ったよ。誰も何も言わない。安心しきってスキャンダル連発になった。最大の負の側面だ。

「レガシーは歴史が判断する」と言っていたけれども、アベノミクスは結局、内需を拡大することなく、借金ばかりを増やした。コロナで「やってる感」も止まってしまった。レガシーといえるのは東西冷戦が終わり、米国に日本を守る責任がなくなる中、日米同盟を双務性にする集団的自衛権行使を認めたことだけだろう。

今年の4月に会ったとき、「後継は岸田にするつもりか」と聞いた。安倍さんに逆に「岸田さんをどう思っている」と聞かれた。「人はいい。あんたも使いやすいだろうと思うが、ベタベタだよ」と言ったら、うなずいていたね。次は菅さんだよ。(聞き手・中嶋文明)