アイデア勝負だ! 元青森県水産振興課で、今年4月から総合販売戦略課の木村紀昭さん(32)が、水産業の消費拡大のために、頭をフル回転させている。19年11月に発案した「漁師カード」は“ヒット企画”となっている。メディアにも取り上げられ、話題は全国区に広がった。海の男が上半身裸に漁業用のカッパ姿は、老若男女を問わず、幅広い層から人気を博す。木村さんが、漁師カード作成の経緯や裏側、今後への展望を語った。【取材構成・佐藤究】

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アイデア感満載のカードを一度見たら、忘れない。それが「漁師カード」だ。上半身裸の漁師が漁業用のカッパを身にまとい、漁具を手にしたり、釣り上げた魚を笑顔で持ったり“決めポーズ”は人それぞれだ。木村さんは「水産物に興味を持ってくれたら。そんな思いで、始めました」。水産業の活性化のため、県庁職員と海の男が結束して、実現した企画だった。

17年から県内の魚をPRする活動に取り組んでおり、その一環として、漁師をモデルにしたポスターが、発端となった。ある日のことだった。若い女性が、木村さんに「(漁師の)ポスターがほしい」と言ってきたのだ。木村さんは「ポスターは大きいので、持って帰るのが大変だと思った。トレーディングカード風に作れば、面白いと思ったし、PRになるのでは」と女性の一声からヒントを得た。19年11月から制作に取りかかった。

カードのは名刺サイズの大きさで、コンパクトだ。「LR(レジェンドレア)☆6 漁協組合長」や「UR(ウルトラレア)☆5 漁師」など“属性”でレア度も分類されている。漁師の名前はローマ字で表記され、どこで漁作業を行っているかも一目で分かる。1つ1つをパワーポイントで丁寧に作成し、情報は必要最低限でシンプルさにもこだわった。写真撮影からラミネートまで、基本的に木村さん1人で手がけている。「組合長の方が、脱いでくれるとは、思わなかった(笑い)」とご年配の方も“裸エプロン”姿になってもらった。

魚フェスタなど、イベントでカードは配布される。昨年の配布枚数は1万5千枚を記録。大人から子どもまで、幅広い層で人気を集めている。中には、東京から漁師カード目当てに青森のイベントに参加するなど、ネット上でも大きな話題を呼んだ。「まったく想像していなかったですね。ツイッター上で火がついた感じです」。その影響もあり、連日、取材が殺到した。国内のみならず、台湾のメディアにも取り上げられるほどだった。「面白いなと思っていたし、カードを配布したら、絶対に喜んでもらえると思っていた。でも、ここまでになるとは」とうれしい悲鳴だった。

水産業の消費拡大の一翼を担っていく。これが原点であり、木村さんは言う。

「それが、我々の命題だと思っている。水産業が面白いと言われることが、あまりない。魚の美味しさに楽しさと面白さを追求している。アイデア勝負だと思うので、今後もいろいろなアプローチで取り組んでいきたい」。

キャッチコピーは「旨いあおもり 肴(さかな)あり」。木村さんの挑戦は、これからも続いていく。