参加者に終着駅を知らせないイベント列車「ミステリートレイン」というのがあるが、そのサイクリング版の「ミステリーブルベ2021」(オダックス・ランドヌール日本橋主催)に参加した。


距離が「????」となっているブルベカード
距離が「????」となっているブルベカード

「ブルベ(フランス語でBrevet)」とは長距離耐久サイクリングのイベントで、基本的には200キロ、300キロ、400キロ、600キロのコースがあり、順位は競わず制限時間内での完走を目指すというもの。ブルベはフランス語で「認定」を意味している。ちなみに今年はフランスで最初に200キロのブルベが開催されてから100年目にあたる。日本では02年に静岡・掛川市で初めて公式のブルベが行われ、筆者は07年から毎年参加している。


通常であればコースを示す「キューシート」が公開され、参加者はその情報をもとに準備することができるのだが、行き先非公開の「ミステリーブルベ」ではキューシートの事前公開はなく、スタートおよび各PC(チェックポイント)で次のPCへのキューシートが配付される。また現在地点表示機器(GPS、スマートフォン)は使用禁止なので、迷っても頼るものはない。ただし距離表示のみのサイコン(これが命綱!)、コンパス、腕時計は持ち込み可。


さらに100キロから150キロとされるコースには「ミステリー地点」があり、隠しテーマがあるという。ちなみに20年は「ウルトラマン」(神宮外苑スタート、TBS社屋横ゴールで、ロケ地などを巡った)、19年は「パリブレストパリ」(4年に一度パリで開催されるブルベの最高峰の大会で世界最古の自転車イベント。旧穴守稲荷神社大鳥居スタート、南麻布ゴールでパリの姉妹都市東京とブレストの姉妹都市横須賀を巡った)だった。


ブルベの制限時間は信号や休憩などのストップを含むグロス平均時速15キロではじき出され、たとえば200キロなら13時間半、600キロなら40時間などとなるが、「ミステリーブルベ」は予備知識なしにキューシートをその場で読み解く必要があるので平均時速12キロで計算され、時間にはかなり余裕がある。このブルベは練習会なので認定はされないが、完走できれば「迷わず行けたぞ」という達成感はありそうだ。


開催されたのは11月17日。その数日前にようやくスタート地点が江東区の「都立木場公園」と発表された。神奈川県央の自宅からは40キロ以上あるので自走は断念。ゴール地点は不明だがとりあえず都内の世田谷区の某所まで車で行き、そこから20キロほど自走して木場へ向かった。


スタート地点の都立木場公園
スタート地点の都立木場公園

スタート地点で渡された最初のキューシートを見ると、真っ先に目に飛び込んできたのが「東京ディズニーランド」。たまたま3日前の雨の日に孫を連れて行ったばかりだ(^_^; そして最初の目的地となる24・1キロ地点のPC1は篠崎ポニーランドだった。この2つがミステリー地点として赤枠で囲ってあったが、魔法の国とポニーの共通点は何だろう?


キューシートには「象限」という聞き慣れない言葉があったが、これは「平面を直交する二直線で仕切ってできる4つの部分の1つ1つのこと」で、右上から反時計回りに第1象限、第2象限、第3象限、第4象限となる。信号名がある交差点や突き当たりでは曲がりやすいが、何もない交差点ではこの「象限」が助け船となる。


スタート地点で配られたキューシート
スタート地点で配られたキューシート

ハンドルにキューシートを付ける
ハンドルにキューシートを付ける

スマホは封印
スマホは封印

午前7時30分、スマホを封筒に入れて封印し、A4のキューシートをハンドルに付け最初の指示通り東(千葉)方面へ向かって出発した。


すぐに荒川を渡り、浦安駅の先を右へ曲がって東京ディズニーランド、舞浜駅と通過。ぐるりと回って今度は旧江戸川沿いを北上する。途中で対岸に準ミステリー地点の「なぎさポニーランド」があるが、「護岸で見えないので止まらなくて結構です」とある。むむむ、「ポニー」が隠しテーマに関係あるのか?


荒川を渡り千葉方面へ
荒川を渡り千葉方面へ

東京ディズニーランド前
東京ディズニーランド前

この先で少しミスコース。区間距離が合わなかったこともあり「Rf」(右前方)へ行くところを前を走る参加者が直進したのでそのままついていってしまった。だが、お互いにすぐに気づき、第4象限の「公園・ネットに覆われた球技場」が発見できたので大事には至らなかった。


24・1キロ地点のPC1の篠崎ポニーランド到着は午前9時18分。ちょっとのんびりし過ぎたかな(^_^;


篠崎ポニーランド
篠崎ポニーランド

このまま埼玉、あるいは千葉方面へ進むのかと思いきや、PC1で手渡されたキューシートの指示は東京を西へ向かって横断せよとなっていた。交差点名も神保町、市ケ谷駅、上北沢というなじみのあるものが現れ、終盤には道標の方面に町田、八王子、立川という文字。あちゃー、もしかして自宅方面へ向かう? 土地勘のある地域へ行くのは安心感があるが、まったく知らない道も走ってみたいというのも一方では本音としてあったのでちょっと残念。ただし、82・7キロ地点のPC2「レンガの広場」は初耳でどこにあるかは不明だったので、ミステリー感はまだ残っていた。


このPC1からPC2までの約60キロは渋滞&信号地獄だった。国道14号(京葉道路)をまずは進み、人があふれる亀戸駅前、錦糸町駅前、両国駅前を通過。浅草橋から都道302号(靖国通り)に入り、神田、神保町、九段下。新宿御苑の先からは国道20号(甲州街道)となり新宿駅南口の真ん前を通過するという、まるで東京見物のようなルートを西へ向かった。信号は当然ながら多く渋滞も激しく、先に信号が青となる左折レーンにも悩まされ、なかなか前へ進めない。さらに上北沢の先から入った都道14号(東八道路)には路肩がほとんどない。野川公園、多摩霊園を過ぎ、府中付近で再び甲州街道に復帰してもそれは変わらず。事前にコースを知っていたら参加しなかったかもというぐらい、自転車には厳しい道だった。


荒川・小松川橋から東京スカイツリーを臨む
荒川・小松川橋から東京スカイツリーを臨む

新宿御苑
新宿御苑

また、多摩川沿いの新奥多摩街道を走っている時に突然、国道16号の標識が出てびっくり。キューシートには国道20号、都道256号、都道29号と続くとあり、国道16号の記述はない。しまった! どこかで曲がり損ねたかと一気に不安が広がる。戻るかな、どうしようかなと悩みつつ前進していたら救いの神の標識。一瞬だけ国道16号だったようだ。


ミスコースなしに安堵した標識
ミスコースなしに安堵した標識

この区間にミステリー地点はなかったが、準ミステリー地点として「神保町から900メートル右へ進むと、東京ドームシティ内にスーパー戦隊ランド(寄らなくて結構です)」とあった。何か隠された秘密があるのでは…と往復約1キロの寄り道を決行。しかし、通りからはそれらしきものは見えず。こういう時にスマホがないのは辛い。後で調べると地下にあった。見えるはずがない。


東京ドームシティ前
東京ドームシティ前

このあたりで隠しテーマは単純に「ランド」ではないかと思い始めた。東京ディズニーランド、なぎさポニーランド、篠崎ポニーランド、スーパー戦隊ランドと全て「ランド」があるじゃないか。


実はブルベを走るサイクリストは「ランドヌール」と呼ばれる。トレッキングやハイキング、小旅行の意味で使われるRandonnee(ランドネ)というフランス語があるが、これを自転車に対して使う場合は無サポートで長距離を走る耐久サイクリングを指すという。そこから「小旅行をする者」という意味の「ランドヌール」(Randonneur)が生まれた。英語で言うとランドナー。これだ! 「ランドヌールが巡るランドづくし」。これが隠しテーマに違いない。


午後1時7分に到着した58・6キロ地点の「レンガの広場」は睦橋手前の福生市にあった。キューシートに「陸橋東」としか書かれておらず、迷っているとスタッフの方が手を振って導いてくれた。そして渡されたPC3までのキューシートを見ると、ミステリー地点として東京サマーランド、サンリオピューロランド、よみうりランドの文字が。ピンポ~ンですな(^o^) だが、ゴール地点は依然として不明。23区内にある「ランド」ってどこだろう?


レンガの広場
レンガの広場

PC2で渡されたキューシート
PC2で渡されたキューシート

ここからはほとんどが走ったことがあるルート。まずは滝山街道から秋川市の東京サマーランドを訪れる。施設の整備改修工事のため来年3月24日まで休園だったのでひと気がなく寂しい。


さらに日野市の多摩動物公園の反対側にある京王レールランド、多摩市のサンリオピューロランドと回り、尾根幹をひたすら走った後は多摩川手前を右に曲がってよみうりランドへ。「ランド坂」はそのまま直進して上って行くきつい道のことだとずっと思っていたが、今回のコースは京王線よみうりランド駅の先を左折してジャイアンツ球場へと向かうもの。こちらの方が路肩が広くて安全だし、何人かがアタックをかけて上っていたので、こちらをランド坂と言うのかな。距離が長い分、こう配は直進するよりは多少緩い。


東京サマーランド
東京サマーランド

京王レールランド
京王レールランド

サンリオピューロランド
サンリオピューロランド

よみうりランド
よみうりランド

「ランド」4つを一気に通過した後は、多摩水道橋で多摩川を渡り、通過チェックの狛江三叉路へ。この付近のコンビニのネットワークプリントでゴールまでのキューシートを手に入れることになる。まるでスパイ映画のよう(^o^) ワクワクドキドキしながらコードを入力。出てきたキューシートを見ると、ゴールはなんと原宿の「キディランド」。確かに「ランド」には違いないが意表を突かれた。


最後のキューシート
最後のキューシート

この後はだんだんと暗くなり、多数の自転車や車が行き交う危険たっぷりの世田谷通りを走る。途中で準ミステリー地点としてあった「オークラランド(看板あり)」はいいが、「長谷川自転車(ランド・ナー専門店)」には思わず頬が緩んだ。


最後は国道246号(青山通り)へ出て渋谷駅の南を突破。表参道から原宿方面へ左折し、午後5時30分に「キディランド」に到着した。距離は147・6キロで所要時間は10時間ちょうど。グロス平均時速は14・7キロ。ブルベならタイムオーバーだが、今回の練習会では時速12キロ以上なのでクリアとなる。


原宿「キディランド」前
原宿「キディランド」前

原宿「キディランド」
原宿「キディランド」

フィニッシュ受付は原宿駅を越えてもう少し先に進んだ「国立オリンピック記念青少年センター」内で。そこで今回のコースのネタバラしが行われた。サブタイトルは「ランドヌールがランドを巡(めぐ)ール」というものでほぼ想像通りだった。また、完走者には前回までは車輪を模した「パリブレスト」が振る舞われていたが、今回は「ランドヌール」という名称の車輪に見えなくもないケーキが用意されていた。


「ランドヌール」という名のケーキが振る舞われた
「ランドヌール」という名のケーキが振る舞われた

結果的にこういうコースだった(封印直前にGPSアプリを起動して記録)
結果的にこういうコースだった(封印直前にGPSアプリを起動して記録)

初参加したミステリーブルベだったが、ゲーム感覚たっぷりの面白い趣向で楽しいライドとなった。23区内の甲州街道や世田谷通り、国道246号などはあまり走りたくないが、迷っていないかと道中で不安感や緊張感を味わいながら走るのも刺激的でいい。来年も参加しようかな(^o^)


車を駐車した世田谷区の某所までは約10キロ。ゴールが足立区や葛飾区などの東部でなく、渋谷区で助かった。ヘタすれば再び東京横断が待っていたからね。【石井政己】