兵庫県の姫路から山中に入り、岡山県の津山を経て新見に至るのが姫新線(きしんせん)である。もともとは近畿地方から山陰地方を目指し、因美線で鳥取へ、伯備線で島根へと向かう陰陽連絡線のひとつで戦前に全線開通している。かつては優等列車も走っていたが、今は通しで運転される列車はなく、姫路~佐用、佐用~津山、津山~新見の3区間でそれぞれの地域輸送を担う。今回は兵庫県内の紹介。JR西日本のローカル線では車両も含め独自色が強く、なおかつトリビアの多い路線でもある。青春18きっぷでいかがでしょう?

 
 

今春も青春18きっぷのシーズンが始まったが、姫新線のスタートは「18きっぷの難所」姫路駅だ。難所と書くと大げさだが、山陽本線と播但線&姫新線の間には中間改札があり、18きっぷの場合は有人改札を通る必要があるからだ。ズラリ並ぶ自動改札機の端に有人改札はひとつで、両線の列車が到着する度に、この有人改札はかなり混雑する。後ろで聞いていると無人駅でのICタッチ忘れが多いようだが、18きっぷで乗車する方は、早めの到着を心がけたい。

さてICカードが導入されるからには、それなりの利用者がいるということ。姫新線では姫路~播磨新宮まで導入されている。姫新線は全線単線非電化だが、この区間は完全に姫路近郊の通勤通学圏。神戸はもちろん、大阪へも通っているようだ。

〈1〉高架となっている姫新線のホームからは吹き抜けで姫路城が見える(2020年8月)
〈1〉高架となっている姫新線のホームからは吹き抜けで姫路城が見える(2020年8月)
〈2〉播但線と姫新線は1つのホームは4線で分け合うような構造となっている(2020年8月)
〈2〉播但線と姫新線は1つのホームは4線で分け合うような構造となっている(2020年8月)
〈3〉姫新線の兵庫県区間を走るキハ122・127系(2020年2月)
〈3〉姫新線の兵庫県区間を走るキハ122・127系(2020年2月)

姫路城が見えるように設計された姫新線ホームに出るとスタイリッシュな車両の出迎えを受ける(写真1~3)。JR西日本のローカル車両といえば、非電化区間、電化区間ともに非電化単行運転用のキハ120もしくは昭和から頑張る車両のイメージが強いが、姫新線の兵庫県部分は全く違う。佐用~上月の1区間を除くと走るのは姫新線専用車両のキハ122系と127系のみ(単行用が122系、2両用が127系で基本的に同じ車両)。運行開始から12年の新車だ。

この区間は新車導入直前に沿線自治体が工費の一部を負担する形で高速化工事が施され、兵庫県部分の約50キロの運行時間が20分近くも短縮され、利用者も安定することになった。新車の運用がこの区間に限られているのは新車製造にも自治体の援助が入っているためだ。援助があったからかどうか分からないが、公平にすべての列車が各駅停車である。姫路線のイメージカラーは赤とんぼで、車両には、それを表す帯と赤とんぼのイラストも見える。

〈4〉改装はされたが木造駅舎が残る余部駅
〈4〉改装はされたが木造駅舎が残る余部駅
〈5〉たつの市の中心駅である本竜野駅は立派な橋上駅舎へと生まれ変わった
〈5〉たつの市の中心駅である本竜野駅は立派な橋上駅舎へと生まれ変わった

姫路から乗車すると余部(よべ)、播磨新宮の順で本数が減っていく。余部はわずか2駅目だがここには車庫がある上、この区間の利用者が多いからだと思われる(写真4)。ちなみに余部(あまるべ)鉄橋で有名な山陰本線の駅は「餘部」。地名は余部で読みも異なるが同じ文字を避けるため、後からできた駅に難しい漢字をあてたという。

姫路市を離れると最初の駅が本竜野(写真5)。山陽本線にも竜野駅があるが、たつの市の中心地はこちら。青森県の八戸と本八戸の関係に似ている。竜野駅については、平成の合併前までは旧龍野市になかった…というエピソードもあるが、長くなるのでここまでにしよう。高速化工事の際、立派な橋上駅舎となった。

〈6〉東觜崎は木造駅舎が残る無人駅だった(2020年2月)
〈6〉東觜崎は木造駅舎が残る無人駅だった(2020年2月)
〈7〉なかなか書けないし読めない東觜崎の駅名標
〈7〉なかなか書けないし読めない東觜崎の駅名標

読めない書けないの東觜崎(ひがしはしさき)はそうめんの有名ブランド揖保乃糸の資料館最寄り駅(写真6、7)。そうめんレストランも併設されているので、ぜひ味わってほしい。話を戻すと本竜野にはしょうゆ資料館がある。

〈8〉播磨新宮駅。姫路からの列車はほとんどがこの駅で終点となり、佐用方面へは乗り換えとなる(2020年8月)
〈8〉播磨新宮駅。姫路からの列車はほとんどがこの駅で終点となり、佐用方面へは乗り換えとなる(2020年8月)
〈9〉播磨新宮は姫新線のICOCA利用の“北限”となる(2020年8月)
〈9〉播磨新宮は姫新線のICOCA利用の“北限”となる(2020年8月)

播磨新宮は元の新宮町(現在はたつの市)の中心駅(写真8、9)。本竜野と同じく橋上駅舎に衣替えしており、姫路からの列車は大半がここで終点。昼間の運行は播磨新宮までが30分に1本、播磨新宮から先が1~2時間に1本。先に向かう列車については短時間で乗り継ぐことができる。すでに車窓は川と田畑がメインになっている。

〈10〉三日月駅の駅舎には三日月が掲げられている
〈10〉三日月駅の駅舎には三日月が掲げられている
〈11〉まさに三日月づくしとなっている(2020年2月)
〈11〉まさに三日月づくしとなっている(2020年2月)

播磨新宮から先の見どころは三日月駅だ(写真10、11)。三日月藩の城下町。駅舎に掲げられた三日月が目を引く。駅のホームからも三日月が見える、まさに三日月づくし。この三日月を背景に接近してくる列車を撮れば、きっといい写真が…と思いながら訪問して撮り忘れる、というアホなことを毎回やらかす駅である。

〈12〉佐用は智頭急行との接続駅。智頭急行の特急も停車する(2020年8月)
〈12〉佐用は智頭急行との接続駅。智頭急行の特急も停車する(2020年8月)
〈13〉佐用(さよう)町の中心駅である佐用(さよ)駅
〈13〉佐用(さよう)町の中心駅である佐用(さよ)駅

佐用は智頭急行との接続駅で姫新線の兵庫県側が事実上、一区切りとなる運行の重要駅(上月までは本数が極端に減る)。米原(まいはら)町にあった米原(まいばら)駅と似ていて佐用(さよう)町にある佐用(さよ)駅である(写真12、13)。

〈14〉西栗栖は駅舎が解体された直後だった(2020年2月)
〈14〉西栗栖は駅舎が解体された直後だった(2020年2月)

歴史の古さゆえ、駅ごとのエピソードに事欠かない姫新線だが、その一方で高速化工事をきっかけに古い駅舎が、どんどん姿を消しているのも事実。旧駅舎が多く残る播但線(記事は昨年9月3、10日)とは対照的だ。昨年2月、西栗栖駅を訪れた際は解体工事が終わった直後で私は崩れ落ちた(写真14)。また太市駅は昨年8月の時点では駅舎があったが、今は残っていないと思われる(写真15、16)。

〈15〉昨年8月に訪れた時は、太市駅の駅舎はまだ健在だった
〈15〉昨年8月に訪れた時は、太市駅の駅舎はまだ健在だった
〈16〉太市ではしっかり財産標も撮ったのだが…
〈16〉太市ではしっかり財産標も撮ったのだが…

優等列車のない姫新線は18きっぷ向け。特に兵庫県内は本数も多く各駅を回る難易度も低い。まだ残る駅舎も含め、歴史とトリビアを感じながら専用車両で旅してほしい路線である。【高木茂久】