朝の7時42分。東京駅から新幹線で広島へ向かう。秋の広島の旅。朝食にサンドイッチをほおばりながら缶コーヒー。車窓から景色を眺めて飲むコーヒーは不思議にうまい。車内を見渡せば、全員きっちりマスク…。まだまだコロナは油断できないが、久しぶりの旅に胸は高鳴った。



午前11時39分、広島駅着。まず向かったのがお好み焼き屋さん。駅前ビルのワンフロアに15店舗も専門店が入る「駅前ひろば」。その中の1店に。

店員さんが職人技のパフォーマンスで、目の前の鉄板にお好み焼きを次々と焼き上げていく。

生地の上に削り節、キャベツ、天カス、タコ、豚肉、麺、卵、ソース、青のり…。なんだか、まだまだ盛り付けて焼いてくれていたみたいだ…。大盛り

「ハイ! ヘラで切って、そのまま口に持ってって食べてちょうだい。やけどしないように」

熱っ! 熱いがうまい。止まらない。熱っ。


まず向かったのがお好み焼き屋
まず向かったのがお好み焼き屋

「『広島風お好み焼き』っていうと、お店の人が嫌がるって聞いたんですけど?」

「そりゃあそうでしょ。元来、お好み焼きは広島のもの。それをわざわざ、広島風とか言われちゃあ…」。そう答えながらも「ハイ、これサービス」と言って「がんす」を焼いてくれた。魚のすり身を揚げたものとか。これがまたうまかった。

広島のソウルフード。熱気といい、勢いといい、作る方もソウルフルだが、食べる方もパワーがいる。腹がパンパンである。


そして初お目見えの豪華観光列車「エトセトラ」の車両見学である。この「エトセトラ」は往路が海沿いの呉線・広島~尾道。復路が山側の山陽線・尾道から宮島口を走る。


「エトセトラ」の内装は瀬戸内の山の新緑を表現
「エトセトラ」の内装は瀬戸内の山の新緑を表現

全2両編成。売りは何と言っても優美な車内ではないか。1号車はオレンジ色、2号車はグリーンを基調に、座席がゆったりと車窓に向かっていた。全席グリーン指定。

そして、この車内でもう一つ豪華なのは嗜好(しこう)品。むろん有料だが、ケーキや和菓子などのスイーツ詰め合わせ(2000円)が楽しめる。復路はお酒。バーカウンターで旅の余韻に酔いしれてといわんばかりに地酒も飲める。


ケーキや和菓子などのスイーツ詰め合わせ
ケーキや和菓子などのスイーツ詰め合わせ

広島といえば酒どころである。この車内見学の後、向かったのも酒の町・西条。神戸の灘、京都の伏見、そして広島の西条。3大醸造地のひとつである

駅を降りれば、駅前を東西に約1キロの「酒蔵通り」。酒醸造のレンガ煙突が、何本も目に飛び込んできた。なんと、7つもの蔵元が集約的に並ぶ。


吟醸酒で有名な「賀茂鶴」
吟醸酒で有名な「賀茂鶴」

さぁ、行ってみようか!。いやその前に、言ってみようか…。「白牡丹」「山陽鶴」「西條鶴」「亀齢」「福美人」「賀茂鶴」「賀茂泉」。こう並べただけで、ちょっと一杯、利き酒がしたくなる。

寄ったのが「賀茂鶴(かもつる)」。吟醸酒で有名な「賀茂鶴」である。ちなみに2014年、オバマ前大統領、安倍前首相が「すきやばし次郎」で酌み交わしたのもここの大吟醸だったとか。鶴は「づる」と濁らない。酒メーカーさんは「濁り」を嫌うとか…。寝酒用に小さな瓶をひとつ求めた。

  ◇

旅、2日目。

今日は午前中はクリームパンの人気店「八天堂」本店で、クリームパン作り体験。午後からは新豪華観光クルーザー「シースピカ」に乗船して瀬戸内クルーズを楽しむ予定だ。

広島県三原市にある「八天堂本店」は、都内でも人気のパン屋さん。カフェとアトリエを一緒にした「カフェリエ」はフレンチトーストやパンケーキなどが食べられる他、「パンつくりの体験」も楽しめる。


パンの中にクリームをチューブで注入
パンの中にクリームをチューブで注入

「いいオヤジが、子どもだましのようなパン作りでもないだろう…」と言った仲間もいたが、旅での体験は「思い出」も作る。だから楽しいのである。

予約制で、1000円が必要だが、自分でパンの生地にチョコレートで動物の顔を書いたり、パンの中にクリームをチューブで注入したり…。まあ、童心に帰って楽しむ。もちろん出来上がったオリジナルのパンはその場でパクリ。幸せの味わいであった。


出来上がったオリジナルのパン
出来上がったオリジナルのパン

さて、豪華観光クルーザーの「シースピカ」にいよいよ乗船である。

スピカはおとめ座の中でも、最も明るい一等星。瀬戸内海に輝きを放ちながら巡る…。そんな意味合いか。10月から運行を始めたばかりである。


豪華観光クルーザー「シースピカ」
豪華観光クルーザー「シースピカ」

三原港から乗り広島港に向かう。瀬戸内海ブルーで統一された豪華客席の1階を抜け、2階の開放的な屋外デッキ「スピカテラス」に出る。ゆったりとした椅子に背伸びするように腰かけ海を満喫する。

午後1時25分に三原を出航したスピカが、ウサギの島として人気の「大久野島」にも寄港した。島に上陸すると、餌(100円)をもった女性群は、すぐにウサギに囲まれた。


ウサギの島「大久野島」で餌をやる
ウサギの島「大久野島」で餌をやる

モフモフ感と食べる様子のモグモグ感。観光時間30分はあっという間に過ぎていた。次の島へ向かう。

「大崎下島(おおさきしもじま)」。大久野島がかわいらしいウサギの島なら、こちらは大人の島である。江戸時代の繁栄の面影を色濃く残す港町・御手洗(みたらい)は北前船の栄枯盛衰。いや「歴史」を残す。紅殻格子に石畳、古い神社がひっそりと佇みをみせ、映画のロケ地に迷い込んだような楽しさ。

JR西日本営業本部・内山興氏は「今、瀬戸内は、鉄道やバスと船の周遊を組み合わせた旅が人気なんです。シルバー世代だけでなく若い人にも是非このクルーズの旅を楽しんでほしいです」と説明してくれた。

海と島の時間を満喫した「シースピカ」の旅。広島着は18時。秋の夕闇が静かに島々を包みこんでいた。【馬場龍彦】