全国でワカサギ釣り場が拡大している。日本釣用品工業会(日釣工)と日本釣振興会の協働事業として2013年(平25)度から開始した「LOVE BLUE」事業の一環だ。中でも日釣工が手がけている「水産庁後援事業 内水面釣り場拡大 ワカサギ」では、ワカサギを増殖するための初期設備投資として物納で17道県、25団体を支援している。誰もが手軽に楽しめ、食べておいしい魚の釣り場を整備することで、釣り客を呼び、雇用を安定させたり、産業の振興につなげるなど、「地方創生」の典型例にもなっている。

ワカサギ釣りでは大きな群れに当たれば多点掛けして数が伸びる
ワカサギ釣りでは大きな群れに当たれば多点掛けして数が伸びる

「LOVE BLUE」には4つの事業がある。「水辺をきれいに」「サカナを守ろう」「フィールドを広げよう」「マナーを守ろう」だ。日釣工によると、「この3番目に、ワカサギの釣り場拡大は当てはまる」という。日釣工では年齢、性別、レベルを問わずに楽しめる「入門編」の釣りとしてのワカサギに注目。8年前から拡大事業として推進し始めた。

都道府県または同水産試験場と連携して取り組もうと手を挙げ、正式な了承を得た漁業者や自治体などの事業に対し、ワカサギの卵の供給にかかる初期設備を物納で支援する。応募に当たっては、向こう3年間の事業計画を提出したり、都道府県水産試験場の協力を得るなどの条件がある。日釣工の審査を経て、決定される。

支援が決まれば、各地から要望のあった自然産卵水槽、付着沈性卵用のふ化装置、採卵用の親魚を捕獲するための定置網などを物納する。増殖に主眼を置いたのは、「地球温暖化」の影響などからか、受精卵の供給源となる北海道や長野県などの出荷状況が不安定になっているためだ。安定供給、高いふ化率での放流作業がワカサギ釣りを看板とする漁協や地域の重要課題となっていた。

手始めとして2017年(平29)度に群馬・鳴沢湖、長野・美鈴湖と小花見池でモデル事業として実施。18年度から全国を対象として支援し始めた。

それぞれの場所で事象が違うため、どんな装置で支援するのか変わってくる。産地として親魚から採卵する資源量がある茨城・霞ケ浦は水槽を要望してきた。山梨・河口湖はふ化施設と採卵施設を増設。これによってジワジワとワカサギが増え始め、秋から冬にボートで狙うだけでなく、地元の同湖漁協と民間1社だったワカサギ釣りのドーム船が現在9軒に増えている。河口湖と並んで富士五湖で屈指のワカサギ釣り場として栄える山中湖では、翌19年度に水槽を入れた。これで自己採卵し、安定供給できるようになった。

抱卵した親魚を確保するための定置網
抱卵した親魚を確保するための定置網
効率的に受精卵が確保できる「自然産卵水槽」
効率的に受精卵が確保できる「自然産卵水槽」

ふ化技術も進歩した。この事業に最初に手を挙げた長野県水産試験場では、電源不要で設置場所の制限が少なく、高いふ化率を誇る「ソーラーワカサギふ化装置」を新たに開発した。ソーラーパネル発電と、バッテリーによる蓄電でふ化器を稼働させ、軽トラックやワンボックス車で運搬もできる。小回りを利かせて複数の場所に移動しての設置もできるため、より高いふ化率での増殖が可能になった。同場の技術で全国でも運用されるなど、産業振興につながっている。

電源不要で運搬も可能な「ソーラーワカサギふ化装置」
電源不要で運搬も可能な「ソーラーワカサギふ化装置」

観光にまで発展したのは、20年度の宮城・花山ダム。岩手と秋田の県境にあり、冬場は豪雪で閉ざされていた。可搬型のソーラーふ化装置で増殖したため、ワカサギ釣りが冬の看板観光資源になった。

県として新たにワカサギを売り出そうとしているのが、埼玉だ。22年度に同県の漁業協同組合連合会(漁連)と、水産研究所が手を組み、県漁連がワカサギの漁業権を持つ県内7漁協に受精卵を供給する形にした。人手不足に悩む各漁協の労力を軽くし、もらった受精卵を放流する。

すでに秩父市の浦山ダム、幸手市の権現堂沼、本庄市の間瀬湖で釣果が確認されており、昨年9月に浦山ダムで解禁された。今後は県内で取れた親魚から受精卵を生産し、県内各地に放流、さらに新たなワカサギ釣り場の開拓につなげていく構想があるという。「軌道に乗れば、埼玉県が新しいワカサギ釣りの代表地域になるかもしれません」と、日釣工では期待する。

漁業から始まり、各種機械の開発につなげ、釣りというサービス業を経て地方のにぎわい創出へと発展する。この事業、6次化へのモデルケースと言ってもいいだろう。【赤塚辰浩】

物納支援場所
物納支援場所

4つの事業「LOVE BLUE」

「LOVE BLUE」は、フィールドを守ろうのほか、安心して釣りができるために展開されている。

◆水辺をきれいに 漁港や釣り場などの清掃作業が中心。13年度から始まった水中清掃ではプロダイバーらの力も借りて、36道府県189カ所で実施している。陸上清掃も25都道府県で15年度から行われている。

◆サカナを守ろう 将来に向けて資源を確保するための放流事業がいい例だろう。海では、13年度から1府16県で11魚種約2400万匹が放流されている。淡水でも22年度から15地区で約7トンが放流されている。

◆マナーを守ろう 釣りイベントなどでの啓発が典型。「針や糸を捨てない」「ゴミは持ち帰る」などを呼びかけている。


冷水性の食用魚

ワカサギは、キュウリウオ目キュウリウオ科。冷水性の食用魚で水温、塩分などへの適応範囲の広さ、富栄養化に対する強さから、日本全国の湖沼や人工湖などに移され、放流されている。成熟が早く繁殖力も高い。成魚は体長15センチほど。卵の直径は約1ミリ。1匹の産卵数は1000粒から2万粒。

ボートや桟橋だけでなく、結氷した湖面での穴釣り、ビニールハウスが浮かんだようなドーム船、冷暖房に男女別のトイレ、魚探が感知した魚影を映し出す大型ビジョン、お湯を沸かしてカップ麺を食べるための電気ポットなどを完備した屋形船などで狙う。

甘露煮や天ぷら、フライ、南蛮漬けなどで食べてもうまい。フライや素揚げにしてカツ丼の要領で卵でとじる「ワカサギ丼」、ネギやタマネギ、ニンジン、枝豆などと一緒にするかき揚げなど、料理方法はいろいろある。

ボート釣り
ボート釣り
桟橋釣り
桟橋釣り
ドーム船
ドーム船