<心臓弁膜症(7)>

 心臓弁膜症の中で手術が最も多い大動脈弁疾患には、4つの手術が速やかに行われています。前回は「人工弁置換術(機械弁)」がどのようなものかを紹介しましたので、今回は2つ目の「人工弁置換術(生体弁)」を紹介します。

 ◆人工弁置換術(生体弁) 機械弁とは異なり、生体弁は豚や牛が使われています。豚の場合は大動脈弁が使われ、牛の場合は心臓を覆って保護している心膜が使われています。牛の心膜を弁として使う場合、グルタールアルデハイドという溶液の中で固定したものを使います。この溶液によって、牛の心膜の強度を上げることができるのです。

 機械弁は開胸手術で弁置換を行いますが、生体弁もその点は全く同じ。ただ、機械弁は既に35年以上も使われているほど、耐久性は極めて高い。一方、生体弁は15年くらいでゆっくりと硬化します。耐久性は10~20年くらいです。

 耐久性では機械弁が有利ですが、機械弁で患者さんの大きな悩みになるのは、血栓を抑える抗凝固薬を一生服用する必要があることです。生体弁の耐久性は機械弁に劣るものの、抗凝固薬を一生服用する必要はありません。生体弁の場合、弁置換後3~6カ月間の服用だけで済みます。

 機械弁と生体弁は同じ人工弁置換術であっても、その対象が異なってきます。ここはしっかり認知しておくべきでしょう。

 ◆大動脈弁疾患 これには「大動脈弁閉鎖不全症」「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」があります。大動脈弁閉鎖不全症は大動脈弁が閉じにくくなり、血流に逆流が起こります。一方、大動脈弁狭窄症は弁が硬化し、30%程度しか弁が開かなくなります。その結果、どちらも血液が体の隅々にまで届かなくなってしまうのです。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)