<信頼できる心臓外科医とは(10)>

 新しい治療方法を考え、実際にそれが患者さんに広く行われるようになると、患者さんの喜びの声をたくさん受けとることができるようになりました。「自己心膜を使った大動脈弁形成術で、薬を服用することなく、元気に暮らしています」「この治療のおかげで、スポーツもできています」など。外国の病院に呼ばれて手術を教えに行くと、その手術を開発した医師ということで、心温かく迎えてくれます。

 新しい開発ができたのは、私自身、現状の治療に満足していないから。現状に満足していては、もっと多くの人が救えるようになるはずのはしごをおろしたのと同じです。

 多くの心臓外科医は心臓の大動脈弁の手術は「人工弁置換で良い」と思っています。それは、人間の身体の生理にあてはまった手術ではない。大動脈弁は左心室から血液が押し出されるその圧だけで開閉している、と思っている医師がほとんど。それは違います。左心室の拡張期は大動脈弁周囲の弁輪(ふたの役割をする弁尖=べんせん=の付着部)が縮小し、上行大動脈の基部にあるおわん型のバルサルバ洞が膨らみます。それにより乱流が起こって大動脈弁が閉じるのです。一方、収縮期はまず大動脈弁周囲の弁輪が広がり、大動脈弁の弁尖に隙間ができるので、左心室からの血液の流入がスムーズに行われます。

 つまり、弁輪自体も収縮・拡張しているのです。それを人工弁にすると、人工弁には収縮・拡張がないので自然の動きになっていません。そのため、心臓など身体に負担はかかります。実はこれは1500年ごろにレオナルド・ダビンチが言っているのです。ここを今日の心臓外科医は理解できていない。

 だから、新しいことを患者さんのために開発する医師は、信頼できる心臓外科医、と私は太鼓判を押します。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)