前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺には、2つの大きな役割があります。第1のそれは「排尿のコントロール」です。

尿は腎臓で血液がろ過されることで作られ、尿管から膀胱(ぼうこう)に送り込まれます。膀胱は袋状で伸び縮みする特性から、尿をためることができます。膀胱が尿をためると、その下部から出ている尿道の根元で「膀胱頸部(けいぶ)」が、また前立腺の少し下で「尿道括約筋」が締め、二重に尿道をふさぐ仕組みになっています。

また、排尿をコントロールするとき、自分の意思で動かせる「体性神経」と、自分の意思とは別に動く「自律神経」の両方が関わっています。排尿しないときは、脳からの指令で自律神経のうち交感神経が活発になり、膀胱頸部が収縮して、膀胱の出口をふさいで尿がたまります。脳が排尿の指令を出すと、今度は自律神経の副交感神経の働きが活発になり、膀胱頸部が緩められます。さらに、体性神経である陰部神経から尿道括約筋を緩めるよう指令が出され、尿道が開いて排尿されるというわけです。

前立腺のもう1つの役割は「生殖器官」として、精液の約3割を占める「前立腺液」を作ることにあります。精液の成分には、果糖やタンパク質、酵素、亜鉛などのミネラル、プロスタグランディン(痛みや炎症の原因物質である生理活性物質)などが豊富に含まれています。これらは精子の栄養となり、その活動を活性化するとともに、受精までの移動に際し、精子を保護する役割も果たします。つまり、前立腺は位置的にも機能的にも、精子が精巣で作られ射精までに至る経路にあって、中継の要所といえるのです。

なお、前立腺は膀胱の下に位置し、尿道を包むように存在しますが、その大きさが正常である限り、排尿には直接関与しません。ただ、高齢になると排尿トラブルが増えるのは、前立腺が肥大して上下の括約筋の動きを悪くしたり、尿道を圧迫して尿の流れが悪くなるためなのです。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。