前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺肥大症は直接、命にかかわることはありません。とはいうものの、患者さんの「Quality of Life(QOL)=生活の質」を阻害する病気と言えます。それは、患者さんが、病気による症状や治療の副作用で治療前と同じように生活できなくなったときにも、患者さんが自分らしく、納得いく生活の質の維持を目指す、という考え方です。

そこで、診察の主眼は「どういう症状が顕著で、どれだけQOLを阻害しているか」におき、それを患者さんから聞き取ることが第1歩です。その方法や手順ですが、私はまず、排尿のトラブルを客観的に評価する「IPSS(国際前立腺症状スコア)」を患者さん自身で回答してもらい、その結果を見ながら問診を行います。

IPSSは「過去1カ月間の排尿の具合」について(1)尿をした後に尿が残っている感じがあったか(2)尿をしてから2時間以内にもう1度しなくてはならないことがあったか(3)尿をしている間に尿が何度も途切れることがあったか(4)尿を我慢するのが難しいことがあったか(5)尿の勢いが弱いことがあったか(6)尿をし始めるためにおなかに力を入れることがあったか(7)夜寝てから朝起きるまでに何回尿をするために起きたか、を聞き、6段階(まったくなし=0点、5回に1回の割合未満=1点、2回に1回の割合未満=2点、2回に1回の割合=3点、2回に1回の割合以上=4点、ほとんど常に=5点。(7)は起きた回数がそのまま点数)で回答。この数値を合計した値が、おおよそ0~7が軽症、8~19が中等症、20以上が重症と判断できます。

ただ、合計点数が低くても、1つの項目が高い数値、つまり症状が頻繁に出る場合は「重症」と考えられます。また、排尿トラブルでは、患者さん本人がどう感じ、生活に支障がないか、がポイントとなるため、生活の質を評価するものとして「QOLスコア」で症状の感じ方も点数化し、IPSSスコアと併せて総合的に診断します。

QOLスコアは、「現在の尿の状態がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思うか」という設問に対し、「大変満足=0点、満足=1点、ほぼ満足=2点、満足・不満のどちらでもない=3点、やや不満=4点、不満=5点、大変不満=6点」と点数化します。

医師はIPSS採点にQOLスコアを考慮しながら「7点以下では治療せず様子を見る」「8~19点は薬を出す」「20点以上は必要なら手術も視野」とおよその方針をたてるときの参考にします。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。