前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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医師は問診で、IPSS(国際前立腺症状スコア)や患者さん自身がつけた排尿記録を参考に、およその診療方針をたてます。しかし、これらはどれも患者さんの主観に基づくため身体データとしては、いささか客観性に欠けるきらいがあります。そこで、治療をすすめたときの効果やリスクを、医学的に正確に予測するため、さまざまな検査が必要になってきます。

初めて診療を受ける人には、まず尿を採り、血尿や尿路感染症の有無を調べます。また前立腺の大きさとしこり(がん)の有無を確認するため、肛門から前立腺の触診を実施。ただ触診だけでは、小さいがんの発見率はよくありません。さらに行われるのが「PSA(前立腺特異抗原)検査」です。採血して検査数値を見ると、がんの可能性があるかどうかがわかります。前立腺肥大症とがんの症状は似ているものも少なくないので、必ずがんの有無は確認します。

こうした検査の結果が出たところで再診となりますが、前立腺肥大症の症状を客観的に調べます。いわゆる「超音波(エコー)検査」では、排尿後の膀胱(ぼうこう)内の残尿量が算出できます。また「尿流測定」では、患者さんに尿をためた状態で来院してもらい、小便器に排尿。小便器についたセンサーで排尿時間、尿の総量、秒当たりの尿量スピードがわかります。

手術などの治療を選ぶときには、もっと正確な下部尿路全体(前立腺、膀胱、尿道)の情報が必要になります。そこで、登場するのが「尿流動態検査(ウロダイナミクス検査)」や「膀胱尿道内視鏡検査」です。

前者は、尿をためた状態(蓄尿時)と排尿時の膀胱の様子と尿道の働きを測定、記録する検査です。尿道からカテーテルを入れ、そこから水を流したり、膀胱内の圧力を測定して機能を見ます。尿流測定と膀胱内圧測定を同時に行うことで前立腺による尿道閉塞(へいそく)が、ほんとうに排尿障がいの原因でよいのか、を見ます。

また、後者は、尿道口から軟性ファイバースコープを入れ、膀胱に至る下部尿路を直接観察する検査です。観察しやすいように、膀胱を生理食塩水(濃度0・9%の塩化ナトリウム溶液。人体の体液とほぼ同じ浸透圧になり、注入してもほとんど吸収されないため検査や手術で使われる)で満たします。肥大した前立腺により、尿道腔が閉塞された様子がよくわかります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。