前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺肥大症の進行度は第1期から第3期までに分けられます。第1期は「膀胱(ぼうこう)刺激期」。前立腺の肥大は軽度ながら、膀胱頸部(けいぶ)や尿道は常に圧迫され、刺激を受け続けている状態です。このため、頻尿や夜間頻尿、軽度の排尿困難などの症状があらわれます。

第2期は「残尿期」といい、前立腺の肥大が中等度まで進み、尿道への圧迫が強くなってきます。そのために頻尿や尿意切迫感、排尿困難が強くなってきます。また排尿しても尿が出切らず、残尿感が出始めます。尿路感染症が起きやすくなるほか、急に尿が出なくなる「急性尿閉」が起きたり、血尿が出たりすることもあります。

さらに第3期は「尿閉期」といわれ、前立腺の肥大は重度となり、尿道や膀胱への圧迫が強まります。排尿時には強くいきまなくてはならず、排せつできる尿量も減ってしまいます。尿が少しずつ漏れる「溢流(いつりゅう)性尿失禁」が起きるようになります。慢性の尿閉や、尿が腎臓から膀胱に流れるのが阻害され、腎盂(じんう)と尿管が拡張する「水腎症」など、深刻な合併症を起こすこともあります。

さて、こうした前立腺肥大症の治療には、「経過観察」「行動療法」「薬物療法」「外科療法」があります。症状が軽度の場合、急性尿閉や合併症になる可能性は低く、積極的な治療を行わなくても悪化するとは限らないことから、経過を観察します。行動療法の1つに、生活改善がありますが、具体的には、過度な水分の摂取をやめます。夜間頻尿がある場合、就寝前の水分を控えるだけで症状が軽快することも多いのです。

ほかにアルコールやカフェインを控えたり、排尿方法の指導や、尿道括約筋や肛門括約筋など、骨盤の底部にある筋肉群を体操で鍛え、尿道を締める力を強化する指導などもあります。また、肥満やメタボリック症候群は前立腺肥大症を悪化させる恐れがあるため、食生活の改善や適度な運動による解消を目指します。

症状が悪化した場合、日常生活で困ることが出てきたときは、積極的な治療を行います。薬物療法、外科療法については、次回以降に説明します。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。