前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺肥大症の「薬物療法」として排尿障がいを改善する薬を説明してきましたが、ここでは、細胞が増殖することで肥大する前立腺を縮小させる2種類の薬についてお話しします。

よく使われるのが、「5α(アルファ)還元酵素阻害薬」。5α還元酵素とは、男性ホルモンのテストステロンを、作用のより強いジヒドロテストステロンにかえて、前立腺をさらに肥大させてしまいます。そこで使われるのが5α還元酵素阻害薬であり、5α還元酵素の働きが阻害され、肥大を防ぐのです。

5α還元酵素阻害薬は、テストステロンを減らさないので、ED(勃起障がい)や性欲減退、女性化乳房などの副作用が少ない点が、優れています。

もう1つの薬は、「抗男性ホルモン(抗アンドロゲン)薬」です。これは、男性ホルモンの働きを抑えることで、前立腺を縮小させる薬です。脳の視床下部(間脳に位置しテストステロンを分泌する部位)に働き掛け、血中のテストステロン濃度を低下させます。あわせて、アンドロゲン受容体に作用して、テストステロンが前立腺の細胞に取り込まれるのを阻害するのです。服用後、2週間~1カ月と緩やかに効果があらわれるのが特徴です。

ただ、性機能障がいや女性化乳房などの副作用もあります。薬の服用をやめると、前立腺が再び肥大する可能性もあります。この抗男性ホルモン薬ですが、昨今ではあまり使用されなくなっています。

前立腺肥大症の症状に、急に尿がしたくなったり、我慢するのが難しい尿意切迫感のために頻尿や切迫尿失禁といった「過活動膀胱(ぼうこう)」があります。前立腺肥大症の患者さんの50~70%に、この症状が見られるとされます。これを抑えるために使われるのが「抗コリン薬」といって、膀胱の神経のムスカリン受容体を遮断することで働きを抑え、膀胱の過敏な状態を鎮めます。抗コリン薬と作用が似た薬に「β(ベータ)3作動薬」があります。現在はこちらが主流となっています。

また、生薬・漢方薬が使われることもあります。主なものは、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)。炎症を抑え、むくみを解消するほか、頻尿改善に、ほかの薬と併用されることもあります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。